晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>B8

楽しかったというのかな。
自分は、奴の新しい一面を知ったよ。

ショーンの部屋は、本当にすごかった。
豪華な木の机に、ダブルのウォーターベッド、皮張りのソファー、冷蔵庫まであったんだ。
自分が使っていた部屋なんて、机と二段ベッドがあるくらいだったんだが。

「ショーン、こんな部屋にいたら、人に何かいわれないか?」
「いや、テツオ以外は、誰もここに入れてないから」
「えっ? どうしてだ?」
「仲がいい友達はいなかったからさ」
そういえばショーンは、みんなと一歩おいて付き合っているって感じだった。

自分は、何でそうなのか聞いてみたんだ。
「みんながバカに見えるから」
ショーンは、それだけいってソファーに坐った。
「バカって……ショーン、何てことをいうんだ?」
「口が悪い? でも、それが本音だから」
驚いたよ。

ショーンって、そんなことをいうようには見えなかったからな。
「ここにいる奴らって、おぼっちゃんばかりだろ? 将来に不安がないから、明日か明後日ぐらいのことしか考えてない。だから、つまらないんだ」
学園からは、有名な科学者や文学者が何人か出ていた。

それでショーンは、親のすすめもあって、入学したらしい。
でも、入ってがっかりしたということだった。
自分は、なんだか悲しくなってしまったよ。

ショーンと仲良くなってない頃、自分が毎日、制服のリボンをどうやって結ぼうかなんて思っていた間、奴はそんなことを考えていたわけだから。
「……自分だって、よくバカっていわれるぞ」
そんな言葉が、自然に口をついて出た。

「テツオは……そんなことないよ。
確かにおかしなところはあるけど、あいつらとは違う」
「違うって? 何が?」
「わからない。うまくいえないけど……目が違う」
「目?」

「テツオの目は、常に何かを追い求めてる。冒険家の目だよ」
そんなことをいわれて、自分は奇妙な気分になったんだ。
なぜか、背筋がゾクッとするような感じがした。
胸騒ぎというか、背中を押されて一歩踏み出たというか。
そんな気分だったよ。

ショーンのあの言葉がなければ、今の自分はなかったかもな。
奴と一緒にいると、いつも新しい発見があった。
いろいろ話すようになってから、毎日が楽しくてしかたがなかった。
ショーンが大好きだったよ。
だが、奴の考え方は偏っていたからな。

ちょっといっておいたんだ。
「ショーン、自分から壁を作ったら駄目だよ」
ショーンは、わずかに笑った。
はたして自分のいったことは、伝わったんだろうか。
それはよくわからなかった。

ともかく自分達は、それから次の計画を練ったんだ。
1.どんな計画?
2.それよりショーンの話をもっとして