晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>B10

何でそんな目で見るんだい?
ひどいよ葉子ちゃん…………………。
自分が喋れなかったら、ショーンとあんなに会話はできないよ。
向こうでは、ずっと英語を使ってたんだから。
……な、じゃあ、話を戻すぞ。

「アア……フウン、イヤァー、ンン……ソー、オーケー」
ショーンはふきだしていたな。
だが、シスターはニコリともしなかった。
「懺悔なら昼でもいいでしょうに。
どうして毎晩出歩く必要があるのですか?」
完全に、自分達をうさん臭く思っていたようだった。

「そうですね、失礼しました。もう帰りますよ」
ショーンは、軽く受け流した。
「テツオ、行こう」
だが、自分は一歩も動けなかったんだ。
また、金縛りにあってしまったんだよ。

「どうしたのです?」
シスター・エマが、自分の肩をたたいた。
なんでもないといおうとしたが、声が出なかったよ。
「きゃっ!!」
すると、シスター・エマが手を引っ込めたんだ。
「静電気かしら……?」
静電気なんかじゃない。

あの男の子の霊の仕業だ。
そいつは青白く光りながら、自分の肩にすがりついていたんだ。
シスター・エマはよろめいて、礼拝堂の壁にぶつかった。
その時、ガラスが割れたような音がしたんだよ。

「きゃっ」
「どうしました?」
ショーンが駆け寄る。
「な、何でもないわ」
そういいながら、シスターはポケットに手を入れた。
「痛っ」
手を出し、指をくわえる。
ポケットのあたりは、湿っていたようだった。

「シスター、そのポケット……」
ショーンが、ポケットに手をのばそうとした。
「大丈夫。ビンが割れただけだから。潰してしまったみたい」
「ビン?」

「それより、テツオはどうしたの?
顔が真っ青よ」
男の子の霊は、自分の肩に重くのしかかっていたんだ。
このまま取り殺されてしまうんじゃないかと思ったよ。
(テツオ……)
頭の中で、男の子の霊の声がした。
(早く財宝を探してくれ……)

そして、ふっと肩が軽くなったんだ。
「テツオ、大丈夫か?」
ショーンが近寄って来た。
今度は体が動く。
自分も、ショーンに向かって進んだよ。
「さあ、早く寮に戻りなさい」
シスター・エマが、自分達の背を押した。

その夜は、どうにか無事に戻ることができたんだ。
自分達は、またショーンの部屋で財宝の話をしたよ。
「あの男の子の霊は、財宝を探して欲しがっているぞ」
「えっ、どうしてだい? テツオ」
「よくわからないが、さっきそういっていたからな」

「ふうん」
ショーンは、しばらく考えこんでいた。
そして、こんなことをいいだしたんだ。
「明日、僕はちょっと授業を休むよ」
「えっ、何でだ?」
奴は、授業の時間割を取り出した。

「ちょっと確かめたいことがあるんだ。わけは後で話すから。テツオも、三時間目の授業だけ抜け出してくれないか?」
……葉子ちゃん、ショーンが何を考えたかわかるかい?
1.礼拝堂についてかな
2.男の子の霊についてかな
3.シスターについてかな
4.哲夫おじさんについてかな