晦−つきこもり
>五話目(山崎哲夫)
>D11

まあ、近いな。

……次の日、ショーンは授業を休んだんだ。
ほら、奴は優等生だったから。
具合が悪いの一言で、疑われることなんかなかったよ。
そうして、二時間目までが終わった。
三時間目は体育だった。
自分は、腹が痛くなったふりをして、授業を抜け出したんだ。

まっすぐ礼拝堂に向かったよ。
ショーンと待ち合わせをしていたからな。
三時間目は、礼拝堂を使う授業がなかったんだ。
ショーンの奴、時間割でその辺はしっかりと調べていたよ。
「テツオ、待ってたよ」
奴は、自分の姿を見るなり、小さなビンを取り出した。

「それは?」
「さっき、シスター・エマの持ち物を調べてきたんだ。昨日、シスターはポケットに何か入れていたろ?
あれは、これと同じビンだったんだよ」
ショーンは、聖水が溜めてある器に近寄った。

「この中にビンの水を入れれば、規定量になるはずだよ」
「規定量?」
ショーンは、器に水を入れた。
「……あ!!」
器の底に、仕掛けがあったんだ。
水の重みで底フタが回転し、器の内部に水が流れた。

そして、器の下にあった床が、移動しだしたんだ。
ショーンは、指を鳴らして喜んだ。
「やった……! 思った通りだ!!
昨日、シスターのポケットでビンが割れただろ? 何か隠してるようだったじゃないか。変だと思っていたんだよ」

「おおう、中はどうなっているんだ?」
自分達は、床から伸びていたはしごを下りてみた。
だいたい、三メートルくらいの深さだったな。
「ショーン!! すごいぞ!!」
中には、札束が隠されていたんだ。

木箱の中に、無造作に積まれていたよ。
「財宝というには生々しすぎるな」
ショーンは、苦笑いをしていたな。
その時だよ。
上の方で、嫌な音が響いた。
器に水を入れて移動させた床が、元に戻り始めたんだ。

「しまった!! 時間制限があったのか?」
自分は、慌てて戻ろうとした。
ショーンが後に続く。
はしごを上り、出口に手をかける。
閉まる床を、どうにか押し戻そうとした。
……その時だ。

上から、シスター・エマが覗き込んでいたんだよ。
床板が動いたのは、彼女がずらしたからだったんだ。
「私の荷物を荒らしたのは、あなた達ね?」
シスターは、床板にかけた自分の手を、思い切り踏みつけた。

「どうして? シスターは他の授業のはずなのに……こんなに早く気付くなんて……」
ショーンが、あっけにとられたようにいった。
だが、そんなことをいっても状況は変わらない。
シスターは、自分の指を掴み、出口から離そうとした。

床下に閉じ込めるつもりだったんだろう。
……その時、シスターの背後から、もう一つの顔が覗き込んできたんだ!
男の子の霊だった。
突然、すごい風が吹いた。
床下の札束が舞い上がる。

「きゃっ」
シスター・エマは、驚いてよろけた。
その隙をついて、自分は急いで外に出たんだ。
ショーンもすぐに出てきた。

シスター・エマは、バランスを崩して、床下に落ちそうになったよ。
1.助ける
2.ためらう