晦−つきこもり
>五話目(鈴木由香里)
>A1

ようやく、私の番ってわけ?
待ちくたびれちゃったよ。
でも、そうだね。
この話ってとっておきだから、これくらい後でちょうどいいのかもね。
この話を聞いて感動の涙を流すか、恐ろしさに震えあがるか、あきれてものもいえなくなるかは、全部、みんなの心次第。

私は個人の意志を尊重するからさ。
だから、他人の意見に惑わされないで。
それじゃ、話すよ。
一年ぐらい前だったかなぁ……。
私は遺跡の発掘に行ったんだ。
もちろん、アルバイトで。

遺跡っていっても、そんなに大きなものじゃなかったし、そんなに古いものでもなかったよ。
太古の古墳なんて、そうそうお目にかかれるものじゃなかった。
ねぇ葉子、今でこそ東京は日本の首都として発展してるけど、昔はそうじゃなかったんだよ。

中世の頃まで、都は奈良や京都にあって、それより東は未開の地といかないまでも、全然栄えていなかったらしいじゃん。
鎌倉幕府なんてのもあったけど、けっきょく江戸幕府が開かれるまでの関東地方は、ものすごい田舎だったのさ。

その田舎を開拓して都を築かせたのが、あの徳川家康。
彼が、この土地に都を築くにあたって、風水学を用いたのは有名な話だよね。
山や川の地形は、もともと理想的な配置だったらしいんだけど、城の位置や鬼門の方向にまで風水が計算されているんだって。

まず、江戸城を強力なエネルギースポットの上に建てて、その鬼門にあたる上野に鎮守のためのお寺を置く。
お寺だけでなく、不忍池を琵琶湖に見立てて弁天堂も建てたとか。
わざわざ琵琶湖の神社から、弁財天を勧請してきたっていうよ。

これは全部、京の都に倣った配置なんだってね。
やだなぁ、何だか歴史の授業みたい。
まあ、関係がないこともないんだけど……。
私が発掘に行ったのは、江戸時代の寺跡の調査だったのさ。

寺跡って何が出てくると思う?
お寺にあるものっていったら?
1.お墓
2.釣り鐘
3.仏像