晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>A5

そうですわね。
彼女は、自分が夢を見たのではないかと思ったのです。
「……何でも……ありま……せん」
小さな声でそれだけいうと、彼女はくちびるをかみました。
恭介さんは、気の毒そうに眉をひそませましたわ。

「疲れているみたいですね。ゆっくり休んでください」
そういうと、更紗ちゃんとともに、部屋から出ていきました。
ドアが閉まる瞬間、更紗ちゃんが振り向きました。
彼女に投げた、鋭い視線。
まるで、彼女をにらみ殺そうとしているようでしたわ。

そのままドアは閉まりましたが、彼女は肌が粟立つ思いでした。
自分に嫌がらせをしているのが誰か、見当がついたのですわ。
あの、憎しみに満ちた目。
更紗ちゃんは、彼女を憎んでいるに違いありません。

でも、なぜ?
1.病気を治してほしくないから
2.兄と二人きりで暮らしたいから