晦−つきこもり
>五話目(前田良夫)
>R8

だろ。
ホントのこというとさ、その女子の名前、葉子っていったんだよ。

で、その葉子の顔見て、成田は気が抜けちゃったんだって。
「何だ、おまえかよ……」
いいかけたのどが、バッと切り裂かれた。
ブワアッと飛び散る血しぶきの向こうに、ニヤニヤ笑う葉子の姿があったんだ。

焼けるような痛みに、成田は何が起きたのか、わからなかったって。
ただ、熱い血がどくどく流れて、体から力が抜けてくんだ。
赤く染まったカッターナイフを手に、葉子は笑い続けてる。

「死んじゃえ……死んじゃえ……」
そういって、嬉しそうに成田を見てるんだって。
それで、血を出しきっちゃったヤツが動かなくなると、そこから立ち去ってったんだ。
次の日になって、成田の死体が見つかったんだけど……。

葉子って同級生は、全然覚えてなかったんだって。
これがドクロの呪いってことかなあ。
第一、ホントに同級生だったかも、わかんないしな。
葉子の姿した、別のヤツだったかもしんないし。
でも、そんなの死んだ成田にはわかんないじゃん。

それから、この話をするときに、葉子って名前のヤツがいると、そいつのとこに化けて出るんだって。
葉子ネエも、気をつけた方が……。
意地悪くニヤニヤしていた良夫の顔が、急にこわばった。

「そんな……マジ……?」
馬鹿みたいな顔で、ポカンと口を開けてる。
私の後ろなんて見て、そんなとこに何があるって……。
振り向くと、首から血を流した、見知らぬ男の子が立っていた。
良夫と同じ年くらいかしら。

紙のような顔色をして、恨めしそうに私を見てる。
紫色のくちびるが、震えるように動いた。
「葉子……どうしてなんだよ……」
男の子は、足も動かさないで、スウッと滑るように近づいてくる。

「どうして……俺を殺したんだよ、葉子……」
この子、成田君なの?
葉子って名前の子に、殺されて……幽霊になって、私を!?
「ち、違うわ! 私は、あなたを殺した葉子じゃない!」
私の言葉が通じないように、成田君の幽霊は近づいてくる。

伸びてきた冷たい手が、私の首を締め上げた!
あわてて引き離そうとしても、腕も体も、空気のようにすり抜けてつかめない。
なのに首だけは、実体の手のような力で締めつけられてる。
苦しくて…………息ができない。
もう……。

「葉子ネエを放せよっ!!」
良夫の声がしたと思ったら、急に首が楽になって、私はその場に倒れてしまった。
見上げると、良夫の背中。
私の前に立ちはだかって、幽霊をにらんでいるみたい。

「おまえを殺したのは、オバケ販売機だろっ! 葉子ネエ巻き込むんじゃねーよ!!」
……こんな真剣な声、初めて聞いたわ。
何だか、背中がたくましく見える。
その瞬間、幽霊の姿が揺らめいて消えた。
…………助かったの?

放心したままの私に、良夫が振り向いた。
「葉子ネエ、大丈夫か!?」
私の目をのぞき込むようにして、尋ねてくる。
そんな真剣な顔されたら……。

「葉子ネエ?」
「あ、ううん……な、何でもないわっ」
何だか顔が熱い。
あわてて座り直して、私は心配そうなみんなを見回した。

「もう大丈夫ですから……」
「ならいいけど、もう続けられないだろう?」
泰明さんがいってくれた。
1.いいえ、大丈夫です
2.これで終わりましょう