晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>2J4

俺は拳銃のことが気になった。
しかしそれを忘れようとでもするように、掛け軸の所へ行く。
そして掛け軸を見た。
(江戸時代のものだろうか………)
その掛け軸の幽霊は着物を着ている。

(まあ、明治になっても、みんな洋服ってわけじゃないけどな………)
俺はその絵をあらためて見た。
(美しい女性だな………)
背景はなく、美しい女性が肩越しに振り返るように構えている。

水墨画なので、着物の色はわからないが、その絵では白い死に装束に見える。
(あれ………、何でこの女性が幽霊なんだ………)
俺はあらためてそう思った。
この掛け軸は、ただの女性の絵に見える。
しかし、花田さんも俺も、見ただけで幽霊だと思った。

(これはいったい、どういうことなんだろう)
俺は掛け軸の絵を凝視して、幽霊だと思った理由を探した。
確かに美しさの中に寂しさというか、不気味な雰囲気が漂っている。
(いったいどういう縁のある掛け軸なんだろう………)

俺はそんなことを考えて、その絵を見つめる。
すると、生暖かい風がスーッと流れてきた。
(………………)
俺は唾を飲み込んだ。
「河口さん、寒いですよ」
吉川が騒いでいる。
俺が振り向くと、窓が開いていた。

「ごめん、ごめん」
河口君は笑いながら謝ると、窓を閉める。
(寒い………、しかし、確かに生暖かい風が………)
俺は掛け軸を見た。
風もおさまり、掛け軸が小さく揺れている。

「泰明君、そろそろいかないか」
花田さんの声が聞こえる。
「そうですね………」
俺はそう答えると扉の方に歩いた。
そして俺達は部屋を出る。

(→二階廊下に戻る)
(→全ての部屋を回った場合)