晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>2N4

そこには錬金術の本らしいものが、所狭しと並んでいた。
「泰明さん、明日ゆっくりここにある本、見ていいですか」
河口君はここにある本にかなり興味があるようだった。
「多分、大丈夫だろ」
俺がそういうと、軽く礼をいい、吉川とまた何かを探しさまよい出す。

彼等が去ると、俺はそこに並んでいる本の一つをとった。
その本も錬金術の本だ。
内容はオランダ語で書かれているので、よくわからない。
しかしそこに添えられている図から、ホムンクルスといわれる、人工生命を創造するための方法が書いてあることが推測できる。

所々にペンで印が付いている。
かなり真剣に取り組んでいるようだった。
(しかしいくら明治のころとはいえ、錬金術で人工生命を作るなんて、本気で考えたんだろうか………)
俺は当惑した。
突然、ガラスの割れる音がした。

「馬鹿、何やっているんだよ。まったくおまえは、とろいんだから………」
河口君が吉川を怒鳴っている。
床には、ガラスの欠片が散らかっていた。
どうもフラスコの欠片らしい。
「どうしたんだ………」
俺は彼等のところへ駆け寄って、そう聞いた。

「すいません………、吉川が机にあったフラスコを落として………」
河口君は吉川をかばうように、そういう。
二人はなんだかんだいって、仲がいい。

「しょうがないな、取り敢えず、大きな欠片だけでも隅に片付けておけよ」
彼らにそういって、片付けさせる。
(俺も本を片付けなくちゃ………)
俺は手に握りしめていた本を思いだし、本棚の所にいった。
そして本を棚に戻す。

吉川の悲鳴だった。
(今度は何なんだ………)
俺はその悲鳴の方を見る。
吉川は窓の方を見て、立ちすくんでいた。
「どうしたんだ、吉川」
河口君はあきれた顔して、吉川の所に駆け寄る。

「猫が………、変な猫が………」
吉川は声を震わせながら、河口君に訴えている。
「何いっているんだよ………、いくら猫でもこんなツタを上れるもんか」
河口君はあきれて、そういっている。

「でも、河口さん………、確かに居たんですよ………、信じてくださいよ」
吉川は河口君に助けを求めるようにそう哀願している。
しかし河口君はきびすを返すと、俺にいった。

「泰明さん、吉川を置いて、そろそろ行きませんか」
俺は近くにいる花田さんの方を見る。
「花田さん、そろそろ行きますか?」
そして本を読みふけっている花田さんに声を掛けた。

花田さんは本から眼を話さずに、心、ここにあらずって感じで答えた。
「う・ん………」
彼は全く、動く気配が無い。
俺は扉に向かって歩き出した。
すると吉川が、怯えているような口調で、花田さんを催促する。

「花田さん、早くこの部屋を出ましょうよ………」
花田さんは、残念そうに本を閉じてこっちの方を見る。
「ごめん、ごめん、今行くから………」
彼は、そういうと小走りにこちらに来た。

「泰明君、明日、頼むよ」
そして俺に微笑みながら、そういった。
「ええっ、俺もつきあいますよ」
俺はそういって、その部屋をでた。

(→二階廊下に戻る)
(→全ての部屋を回った場合)