晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>3E3

俺達はさっきの婦人の部屋に来た。
部屋は静まり返り、奇怪な事件の現場とはとても思えない。
みんなは部屋の各所に散らばり、鍵を探し出している。
(早く鍵を探さなければ………)

俺はさっき行った、鏡台のところに向かう。
そして床を這うように探した。
しかしそこには鍵らしいものはない。
(この部屋じゃあないのか………)
俺はあきらめて立った。
人の苦しんでいる姿が鏡に映る。

(な、なんだ………)
俺の体は硬直する。
『ど、毒を入れ………、ど………』
鏡の中の人物は何か呟いている。
(ど、毒………、毒っていったい………)
鏡台の引き出しを俺は見た。

(毒って………、もしかして………)
俺は鏡に視線を戻す。
そこには何人も、何人も毒に苦しんでいる人影が映る。
呆然として、そこに映る人影を俺は見つめた。
(いったい何なんだ………)
そのとき突然、俺の肩を誰かが叩いた。

俺の体が硬直する。
そして俺はゆっくり振り返った。
「花田さん………………」
花田さんがそこにいた。
「どうしたんだ、泰明君………」
俺はその理由を伝えるかのように、鏡を見る。

そして花田さんも、俺の顔の動きに合わせ鏡を見た。
鏡には何も映ってもいない。
俺は鏡台を掴んだ。
さっきまで確かに映っていた筈の、人影は無かった。
花田さんは背後から、その鏡台を覗く。

「いったい何なんだ。泰明君………」
俺は鏡台から離れた。
花田さんは、まだ食い入るように鏡台を見ている。
そして鏡に何も映っていないことを確認すると、引き出しを開けた。

引き出しにはさっきと同じように、香水の瓶に入った毒がきれいに並んでいる。
「泰明君………、いったいどうしたというんだ」
花田さんは振り向いて、俺を見た。
多分、かなり青ざめた顔をしていたのだろう。

彼は俺の怯えている原因を探るかのように、他の引き出しも開ける。
そして手帳のような小冊子を、取り出した。
彼はそれを開いた。
「な、なんなんだ、これは………」
彼の体は硬直した。

そして唇だけが、震えている感じだ。
俺は我を取り戻した。
「花田さん………」
すると花田さんはゆっくりと、その小冊子を俺に渡した。
そこには毒殺した人の一覧が、書かれていた。
毒の種類、死ぬまでの時間………。

かつてのヨーロッパの貴族に、毒を趣味にしていた人達がいると、聞いたことがある。
(さっき鏡に映った人影は………)
俺は立ちすくんだ………。
「泰明さん………、泰明さん………、鍵があったんですか」
河口君が背後で叫んだ。

俺と花田さんは、動きを取り戻した。
「あ、ああっ………、ごめん………」
やっと、それだけ俺は答えることができた。
「じゃあ、早く、次の部屋にいきましょう」
俺と花田さんは、ゆっくり彼等の元に歩みだした。

そして俺達は部屋を出た。

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