晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>3H3

俺達はさっきの婦人の部屋に来た。
部屋は静まり返り、奇怪な事件の現場とはとても思えない。
みんなは部屋の各所に散らばり、鍵を探し出している。
(早く鍵を探さなければ………)

琴のところにいった。
(もし部屋で落ちてるとしたら、この辺りの筈だ………)
そこへ着くと、俺はライトで床を照らした。
(無い………、いったい、どこへ落としたんだ………)
俺は焦った。
しかし、その辺りに鍵は落ちてなかった。

(また、弦が切れたのか………)
俺は琴の方を見た。
しかし、さっきまであった琴が、そこには無かった。
俺は周囲を見回す。
みんなが部屋のあちこちで、床を見つめている。
だが琴は、どこにも見あたらなかった。

(いったい、どこにいったんだ………)
俺は琴のあった場所を、あらためて見た。
そこには朱塗りの琴を弾く女の姿があった。
俺は目を疑った。
(なんなんだ………)
体は金縛りにあったように、動かなかった。

彼女はその場にたたずみ、琴を無心に弾いているように見える。
しかし俺の目に映る彼女の姿は、だんだん大きくなっていくようだ。
そして琴の音は、徐々に大きくなっていく。
俺はもう、何の抵抗もする気がなかった。

思考が、徐々に低下してくるのを感じる。
「………君、………泰明君」
俺は我に返った。
いつの間にか、琴の音色は消えている。
「花………田………さん………」
俺はまるで、眠りからさめたような気分だった。

「泰明君、どうしたんだ………」
花田さんは怒ったような顔をしている。
「き、着物の女性が琴を………」
俺はさっき彼女がいた場所を見た。
(えっ………)

しかし、そこにはただ琴が立て掛けてあるだけだった。
「花田さん………、琴の音が………」
花田さんは、きょとんとした顔をしている。
「女性が琴を弾いていたんです………」
俺は哀願するように、彼に訴えた。

「………、泰明君、とにかく鍵を探して外へ出よう………」
彼はまるで子供をあやすようにいうと、扉の方に歩みだした。
みんなも花田さんに続く。
(確かに………)
俺は花田さんの後に続きながら、そう考えていた。
そう自分を納得させ、みんなに続き部屋を後にする。

(→二階廊下に戻る)
(→全ての部屋を回った場合)