晦−つきこもり
>六話目(真田泰明)
>3M3

俺達は書斎に入った。
中は気のせいか、さっきより重苦しく感じる。
(早く鍵を探さなければ………)

俺は、さっき歩いた所を辿っていく。
そしてあの宗教の本があったところまで来た。
(無い………、ここにはないのか………)
床に隈無くライトを当てたが、鍵が照らしだされることは無かった。

俺は床に膝を付け、床を這うように探し始める。
しかしいくら探しても、鍵は無かった。
鍵は落としたんでは無く、別の理由で消えたんじゃないかという思いが頭を巡った。
鍵束には鍵が外れる要素がない。

(多分、みんなも薄々そう思っているから、俺を責めないんだ………)
俺はそんなことを考えていた。
床を見つめ、俺の頭にそんないろいろな考えが巡る。
その時、俺の目はすぐ前に立っている人物のつま先を捕らえた。

(だ、誰だ………)
俺は一瞬、その人物を見上げるのをためらった。

それは背筋が凍るような冷たい戦慄が、走ったからだった。
しかしこのままつま先を見つめている訳にはいかない。
俺はそのつま先の主を見上げた。
そこには見慣れない人物が立っていた。
(飯山を殺した奴か………)

俺は尻餅をつき、そのまま後ずさりをする。
そして俺は、彼から目をそらすことができなかった。
目をそらすと殺られる、俺はそんな気がしたからだ。
彼は不気味に笑い出した。
(いったい、なんなんだ………)
俺は考えた。

しかしその答えは、どうしても見つからない。
彼の姿は、欧州の貴族のようだった。
穏やかな表情を浮かべているようにも見える。
そしてその顔は、西洋人のそれではなかった。
俺の表情から、少し緊張が解けていくような気がする。

彼はゆっくり歩き出すと、闇に消えた。
俺が一息ついていると、花田さんの叫ぶような声が聞こえた。
叫ぶというより、むしろ悲鳴に近い感じだ。
俺は立ち上がると、周囲を見渡し、花田さんを探した。
花田さんは呆然として、壁を見つめている。

彼の近くには、河口君が駆け寄って来ていた。
俺もそこへ向かう。
そして俺が行くと、彼はゆっくり言葉を発した。
「いま変な女が………、壁の中に消えたんだ………」
河口君はきょとんとしている。
しかし俺はその少ない言葉から、彼が見た物を悟った。

(花田さんは女か………、いったいなんなんだ………)
今度は吉川だ。
あいつは怯え、一人、その壁から離れていた。
「お、お、女の子が………」
彼は別の壁を指さし、震えている。
(今度は女の子か………)
俺は漫然と考えていた。

(男、女、そして女の子………………、もしかして、この屋敷の住人じゃ………)
そんな推理を、俺はしていた。
そのときにはもう、俺はかなり冷静になっていた。
「泰明さん、早く………、こんな所、出ましょうよ………」
吉川は泣いているような声で、俺に訴えた。

「そうだな、部屋を出よう」
そして俺達は外にでた。

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