晦−つきこもり
>六話目(前田和子)
>A5

そう思うの……?
残念ながら、私はその内容を知らないの。
今でも、そのお堂にお札があるかもしれないから、見ればわかると思うけどね。

とにかく、おばあちゃんと赤い靴の子は、願かけのお札を納めたのよ。
そして二人は、石段を下りようとしたの。

……その時よ。
赤い靴の子が、おばあちゃんを石段からつき落とそうとしたの。
わけがわからなくて、おばあちゃんは抵抗したわ。
そうこうしているうちに、もみあいが始まって、反対に赤い靴の子を石段からつき落としてしまったの。

ものすごい悲鳴とともに、女の子はごろごろと転がっていったわ。
ねえ、子供の泣き声とか、叫び声ってすごいじゃないの。
赤ちゃんだって、小さな体からよくあんな声が……っていう感じで泣くわよね。

キンキンして、やけに耳につくっていうのかしら。
そんな声が響いたかと思うと、赤い靴の子は石段の下で倒れて動かなくなったの。
あたりに静寂が訪れたわ。
そして、おばあちゃんのすぐ目の前には、その子の足から外れた、小さな赤い靴が……。

おばあちゃんは、逃げ出してしまったの。
その時は、家に帰ってからも、誰にも何もいえなかったんだって。
とにかく、怖くなってしまってね。
神社に行くのをしばらくやめたらしいの。

とはいっても、神社は家の近くにあったわけだから。
赤い靴の子の噂が流れてきたり、誰かから問い詰められたりするだろうかって、びくびくしていたって。
そして、三日くらいたってからよ。

やっぱり気になって、神社への石段を覗いてみたんだって。
1.女の子が上り下りしてたら怖いなあ
2.神主さんに捕まったら怖いなあ
3.泰明さんを愛する自分が怖いなあ
4.いや違う、実は良夫を愛しているの