晦−つきこもり
>六話目(前田和子)
>L3

あら、よくわかったわね。
彼女は、おばあちゃんと同い年……やっぱり、三才くらいの女の子だったのよ。
あの子は七五三のお参りをしないのかしらって、おばあちゃんは思ったの。
女の子は質素な服に、赤い靴を履いていたんだって。

そして、次の日の朝。
おばあちゃんが縁側に出ていたら、その女の子が通りかかったの。
赤い靴を履いて、石段の方向に進んで行ったのよ。
なんとなく気になって、そっちに行ってみたらね。

その子は、又石段を上り下りしていたの。
あそこの石段って、十三段なのよね。
ごつごつした石の階段を進む赤い靴が、やけに印象的だったって。
おばあちゃんは、その子のことが気になって、しばしば神社への石段を覗くようになったのよ。

女の子は、毎日同じくらいの時間に、石段を上り下りしていたの。
そんなある日、おばあちゃんは、彼女が石段でうずくまっていたのを見て、声をかけたの。
具合が悪いのかなって思って覗き込んだら、その子は泣いていたのよ。

おばあちゃんは、赤い靴の子に、なんでいつも神社に来るのか聞いてみたの。
その子は、願かけのためだと答えたのよ。
願いを書いたお札をお堂に納めて、石の階段を上り下りすると願いがかなうからって。

「階段を上り下りするだけで、願いがかなうの?」
おばあちゃんは、そう聞いたんだって。
好奇心旺盛って感じで、わくわくしながら尋ねたんじゃないかしら。

実はね、赤い靴の子って、病気のお母さんの具合がよくなるように願かけをしていたんだって。
だから、そんな言い方をされたら、きっといい気分ではなかったでしょうね。

それに、この願かけって、十三段ある石段を、毎日百往復しなければならないのよ。
それを一ヶ月続けると、願いがかなうとされていたの。
1.そんなの、大変じゃない?
2.それ、本当なの?