晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>F9

やっぱり、葉子もそう思うんだ。
ところがさぁ、これは冗談なんかじゃなかったんだよね。
新郎側の招待客の一人が、祝辞を述べる時にいってたんだけど……。
そもそも『風間家』には、代々、男の子が一人しか産まれないんだって。

その代りに、一人一人の寿命がものすごく長いんだってさ。
そういわれてみれば、出席してる新郎の親族は、男の人ばっかりで女の人の姿がまったくないの。
どうやら長寿の血は、父から息子へと細く長く伝わるようだね。

それに仮面で顔は見えないけど、なんか、みんな若く思えてしょうがないんだ。

二百才を越えてるはずの爺さんたちが、ロブスターの殻をバリバリと噛み砕き、鳥のもも肉をムシャムシャ食べるんだよ。
私、おもわず胃の調子は大丈夫なんだろうか……なんて心配までしちゃったぁ。
これも風間一族の特徴なのか、新郎の味覚と食欲にも並外れたものがあったよ。

なんと彼は、高さが二メートル以上もあるようなウェディングケーキを、きれいにたいらげちゃったんだ!
普通の結婚式場なんかだと、ウェディングケーキの中ってほとんど空っぽで、プラスチックの芯にクリームが塗ってあるだけなんだってね。

そうでないと、振動や照明の熱でケーキがもたないんだってさ。
ところが、そこは超高級ホテル。
新郎が食べ尽くしたウェディングケーキも、おかかえの一流シェフが制作したという見事な代物だった。

そりゃ……おいしかっただろうとは思うけどさぁ。
聞いただけでも、口の中が甘ったるくなっちゃうよね。
だけど、そのタイミングが非常にまずかったんだ。
……っていうのも、ケーキ入刀の儀式がまだ済んでなかったのさ。

ほら、『新郎新婦の結婚後、初めての共同作業』ってやつ。
それまでは、口許に微笑みを浮かべてた新婦が、突然突っ伏して泣き始めたから、さぁ、大変!
盛り上がってた会場は、一気にシラケきったムードに……。

司会者が機転をきかして進行を変え、新郎新婦はお色直しのために退室。
どうやら、キャンドルサービスの予定を繰り上げて、その間に代わりのケーキを用意する手筈だったみたい。

思ってたよりも早く新しいケーキの用意が終わり、ある程度の落ち着きを取り戻した頃、ホールの照明が、ゆっくりと消されて……。
長いキャンドルに火を灯した新郎新婦が、再入場してきたんだ。

今度はセリなんて使わず、普通に後方のドアを開けて入ってきたよ。
もちろんバックライトやスモークもなし。
スポットライトが、二人の姿を浮かび上がらせるだけだった。

次々と灯されていくキャンドルの炎が、ちょっと幻想的でロマンチックな雰囲気をかもしだし……。
このまま一気に最高潮へ……!!
って、みんなの期待も高まっていったのよ。
だけど、その時!

「ちょーっと、待ったーーー!!」
って声が響いて、ついさっき新郎新婦が入場してきたドアが大きく開かれたの。
会場中の視線が一点に集中し、すべての照明がつけられた。
そこに立っていたのは、黒いタキシード姿の青年だったんだ。

会場内でただ一人、仮面を着けていない人。
その青年の顔を見た瞬間、新郎は驚きの表情を隠せずにいたよ。
目を見開いて、まじまじと青年の顔を見つめてた。
……ところでさぁ、葉子?
結婚式、新郎と新婦、そして突然現れたこの青年……。

これだけのシチュエーションがそろったわけだけど、この三人の関係ってどんなものだと思う?
1.新婦の昔の恋人
2.新郎の昔の恋人
3.赤の他人