晦−つきこもり
>六話目(鈴木由香里)
>M10

「葉子ったら……」
由香里姉さんは、ニヤニヤ笑いながら私の顔を見つめてる。
泰明さんや、和子おばさんも苦笑してるわ。
……私、何か変なこといったかしら?

「葉子ちゃん、青年が新郎の恋人だったとしたら……。
どういう意味になるのかな?」
……えっ!?
ヤダ、私ったら新婦と新郎を間違えてたわ。
恥ずかしい…………。

「葉子、恥ずかしがることないんだよ。そんなに珍しいケースでもないんだからさぁ」
えっ!? そうなの……?
ちっとも知らなかったな……。
「ま、残念ながら、今回はハズレだったけどね……」

新婦は大きな声で叫んだの。
「風間さん……!?」
って。
つまり、突然飛び込んできたこの青年こそが、本物の新郎。
風間家の跡取り息子、風間望……本人だったのさ。

本物の風間望は怒りに身体を震わせながら、キャンドルを持つ偽者の新郎へつかつかと歩み寄って行ったよ。
そして、力任せに偽者を殴り飛ばして……、

「馬鹿、馬鹿、馬鹿ーーー!!
キャンドルサービスは僕にやらせてくれるっていったじゃないかーーー!!」
って、子供みたいに駄々をこね始めたのよ。
すると、

「しょうがないだろ! 予定が変更されちまったんだから!!」
って、殴られた偽者の方もムックリと起き上がって、仮面を外して反論開始。
その仮面の下の素顔がさぁ……。
なんと、本物の風間望と全く同じ顔だったのよ!

ううん、もしかすると彼の方が本物で正しかったのかも……。
本当にうりふたつだった。
え? 双子の兄弟じゃないかって?
まぁ、そうも思えるだろうね。
ここまでならさ……。
ところが、会場に現れた『風間望』は他にもいたのよ。

「俺のケーキを返せーーー!!」
「花束贈呈は譲らんぞーーー!」
「俺は、この愛のメロディーを歌うんだーーー!!」
……って、後から後から『風間望』がなだれ込んで来るんだって。

どれが本物の風間望なのか……なんてことを、ゆっくり考えてる場合じゃなかった。
ワラワラと現れた風間望の集団が、それぞれ好き勝手なことばっかりするもんだから、もう会場中が大混乱!

ついさっきまでの落ち着いた雰囲気はどこかへ消え、豪華な披露宴は、いたずらっ子が飛び跳ねる幼稚園と化してたよ。
新しく用意されたウエディングケーキにかぶりつく者。
招待客のドレスの裾でかくれんぼをする者。
テーブルの上で、ブレイクダンスする者。

マイクを独占して熱唱する者。
それが全員、新郎と同じ顔なんだから!
もはや、新婦にすら、どれが本物の自分の夫なのか見分けがつかなかったみたいだよ。
それどころじゃなかったっていうのが実情かなぁ……。
本当に、パニックなんてもんじゃなかったからさ。

こういう時って、さらに騒ぎをあおる奴っていうのが必ず現れるんだよね。
火に油を注いで風を送る奴……。
この時も、避難場所を捜して右往左往する招待客の中、混乱の渦に進んで身を投じるような、物好きたちの姿があったんだ。

誰? って、風間家の親族たちに決まってんじゃん。
彼らは嬉々として、騒ぎの渦中へ飛び込んで行ったよ。
こんな物着けてられるかって、次々と仮面を外して……さ。
その顔が、また驚いたことに、みんな新郎そっくりだったのよ。

これも一族の特徴だっていうの……?
DNAだっけ……?
俗にいう、遺伝子ってやつだよね。
あれ? 染色体だっけ?
まぁ、どっちでもいいや。
そーゆーのって、私の専門じゃないし。

……そうだなぁ。
確かに遺伝ともいえたんだろうけど、彼らは、先祖だから……で済ませらんないくらい、うりふたつだったんだ。
それに、シワやヒゲがどこか嘘くさいっていうのか……。
無理矢理、老けたフリをしてるって感じ。

もし、彼らのいう風間家の先祖っていうのが嘘だとしたらさぁ。
彼らっていったい何なんだろうね。
こんなにそっくりな人間が、ウジャウジャいるはずないじゃん。
少なくとも普通の環境では……さ。

もしいるとしたら……。
1.クローン人間
2.アンドロイド
3.宇宙人
4.分身の術


◆最初の選択肢で「3.まさか、全然知らない人のっていうんじゃ……?」を選んでいる場合
3.宇宙人