晦−つきこもり
>六話目(藤村正美)
>T5

その通りですわ。
「あたくしが、いったい何をしたというのっ!」
……そう、彼女は叫んだのです。
それが合図だったように、部屋中の火が消えました。
彼女をあぶっていた地獄の炎も、一緒にね。

ベッドやカーテンにも、焼けこげ一つ、ありませんでした。
床に倒れてしまった姫川さんにも、やけどの跡はないようです。
さっきの声が聞こえたのは、そのときでしたわ。
「こんなもんじゃないよ」
ハッと体を固くした彼女の下で、床がうごめきました。

それも、地震のように一様にではなく、細かくバラバラに動いているような……。
生臭いにおいも、どこからか漂ってきます。
起き上がろうと手をつくと、床がずるっと滑りました。
床だと思っていたのは、一面に敷き詰められた生きた蛇だったのです!

体の下の蛇たちが、鎌首をもたげて彼女を見ています。
その感情のない、冷たい目に射すくめられ、姫川さんの背筋は凍りつきました。
「ひーーーーっ!」
起き上がろうとしても、足場もないのです。
手をついては滑り、ひざで立とうとしては滑ります。

怒った蛇たちは、彼女の体に巻きついてきました。
「いやーっ! いやよーーーっ!!」
全身を蛇に巻きつかれ、姫川さんは泣き出しました。
すると、泣き声が気に障ったのでしょうか。
蛇たちは、牙を彼女に突き立てたのです。

「ぎゃああっ!!」
細い牙が皮膚を貫き、肉に埋め込まれます。
何百もの画鋲を、全身に刺されたようなショック。
激しい痛みに、彼女は飛び上がりました。
はずみで、つぶれた蛇の体液が、ぴちゃっと顔にかかりました。

生臭いにおいが、いっそう強まったようです。
本能的な嫌悪感に、彼女の顔がゆがみました。
そして、また叫んだのです。
今度は、何と叫んだと思いますか?
1.「助けて!」
2.「いい加減にして!」