晦−つきこもり
>六話目(前田良夫)
>N5

そうだよな。
誰だって、そう思うって。
だから、片山の兄ちゃんも、そう思ったんだ。

だからいきなり、その袋をつかんで立ち上がった。
「何するんだい! まだ、あげたとはいってないだろっ」
しがみついてきたピンクさんを、思いきりけり飛ばしたんだ。
ピンクさんはひっくり返って、座卓の角に頭をぶつけた。
重い、いやな音がした。

角には、べっとりと血がついてる。
ずるずるっと畳の上に倒れたピンクさんは、そのままピクリとも動かないんだよ。
死んじゃったのか!?
顔をのぞき込もうとした瞬間、グズグズッという音がした。
そして、ピンクさんは、どろりと溶けて崩れちゃったんだ!

ソフトクリームを、電子レンジで温めたみたいに、あっという間にさ。
「わっ、わああっ!」
片山の兄ちゃんは、ビビって逃げ出した。
ピンクさんの家を飛び出したときに、誰かとぶつかった。
スーツ着た、知らない大人だったんだって。

「おいおい危ないぞ」
「た、助け……」
見上げた片山の兄ちゃんの目の前で、人のよさそうな顔が、どろっと崩れた。
「ぎゃあーーーーっ!!」
必死で振り払って、また駆け出す。
何がどうなったんだ!?

あいつは、ピンクさんの仲間なのか!?
そんなことを考えながら、やっと家にたどり着いた。
倒れ込むようにドアを開ける。
台所にいた母親が、ビックリしたように顔をのぞかせた。
「あらやだ、乱暴しないでよ」
その声に、片山の兄ちゃんはビクッと飛び上がった。

さっきの大人みたいに、母親まで溶けちゃったらどうしよう!?
そう思ったんだよ。
葉子ネエ、そんなことあり得ると思う?
1.あり得る
2.あり得ない