晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>B14

何だろう……。

「あっ、葉子、
どこに行くの?」
「すぐに戻ってきますわ」
答えたのは、正美おばさんだった。
開かずの間を出て、廊下を進む。
そして、小さな部屋に入った。

「葉子ちゃん、さっきの話の続きですけれど」
部屋に入るなり、正美おばさんは振り向いて、私の手を握った。
「見たんでしょう。私達が、良夫くんを石段からつき落としたのを」
えっ?

正美おばさんは、美しい瞳を揺らして笑った。
「だから口止めに行ったのに……まんまと逃げてくれましたわね」
その声を合図にしたように、私の背後のふすまが開く。
誰かが、私の口を塞いだ。
大きな男の手。

「ぐ……んぐっ……」
声が出せない。
正美おばさんは、私の様子を見て、あごをしゃくり上げた。

「ふふ、苦しいかしら。
ねえ、和子おばさんがした赤い靴の子の話ですけれど……葉子ちゃんはどう思いまして?」
1.かわいそう
2.怖い