晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>L16

「ええ、ええ、そうですわね。
でも、だからといって、あなたのおばあちゃんが全く悪くないともいえませんわよね。
……葉子ちゃん、邪魔をしないでくださいな。

私、前田の本家に養女に入るつもりですのよ。
和子おばさんや、良夫が亡くなった今……。
この家には、跡取りがいないわけですから。
他のいとこに、その座はわたしませんわ。
私、前田のおじさんに気に入られていますもの。

……嫌ですわ。
葉子ちゃん、すごい目で睨むんですのね。
大好きな泰明さんまで殺されてしまったから?
しょうがなかったんです。
あの人が、あなたをかばうから……。

お堂であなたがおとなしくしていたら、こんなことにはならなかったんですのよ。
そうですわよね、哲夫さん」
……哲夫さん?
「すまん、葉子ちゃん」
私の口を押さえつけていた手が、ピクリと動いた。
聞き慣れた声。

あの黒い影は、哲夫おじさんだったの?
そういえば、和子おばさんが石段から落ちた時、旧家の庭で、真っ先に声をかけてきたのは、哲夫おじさんだった。
良夫が落ちた時、懐中電灯に照らされたのも。

そして、私が襲われた時にも、哲夫おじさんは後から客間に入って来た……。
「すまん、葉子ちゃん。自分は、正美ちゃんが昔から好きだったんだ。

幼なじみだったから、正美ちゃんがどんな苦労をしてきたかも知っている。だから、放ってはおけなかったんだよ」
哲夫おじさんの震えが伝わってくる。
私の口を押さえていた手の力がゆるんだ。
「き……ゃ……っ!」
怖くて、大きな声が出せない。

それでも、声や物音をたてれば、誰かが気付いてくれるかもしれない。
私は、ふすまを蹴飛ばした。
「やめ……!」
哲夫おじさんは、慌てだした。
「おい、どうしたんだ?」
この声は……和弘さん?
助かった!!

和弘さんは、ふすまを勢いよく開けた。
「哲夫? 何をしてるんだ!?」
押さえつけられた私を見て、和弘さんが哲夫おじさんを殴る。
「なにするんですの?」
正美おばさんを無視して、部屋を飛び出した。
和弘さんに連れられ、旧家から逃げ出す。

とはいえ、これからどこに行こう?
ここから歩いていける所なんて……。
「お堂にいこうか」
和弘さんが、そんなことをいいだした。
1.行く
2.それは嫌