晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>W7

「待ってください」
私は、泰明さんを引き止めた。
「……どうしたんだい、気が変わった? でも、君を一人でおいていくわけにはいかないよ」
みんながうなづく。
結局私は、和弘さんをおいて客間を出ていった。

「わっ、暗いなあ」
泰明さんが、表に出るなりいう。
「あ、懐中電灯つけます。これがないと、何も見えませんよね」
「葉子ネエ、気をつけてくれよな、今夜はつきこもりだから」
……良夫。

和子おばさんと同じことをいっている。
私達は、お堂に向かって急ぎ足で進んだ。
石段に着くと、和子おばさんは倒れたままの姿勢で転がっていた。
「じゃあ、脈を見ますわよ」
正美おばさんが近寄る。

「……どうだい、大丈夫そうか?」
哲夫おじさんが覗き込む。
正美おばさんは、何もいわない。
うつむいたまま、じっとしている。
……まさか。

「残念ですけれど……」
正美おばさんは、わずかに顔を上げてそれだけいった。
和子おばさん、死んでしまったの?
「うそだ! もっとよく調べろよ!!」
良夫が叫ぶ。

「うそなんかじゃ……ありませんわ」
正美おばさんは、きっぱりといいきった。
……良夫!
どうしよう。
こんなことになるなんて……!
良夫は、いきなり黙り込んでしまった。

「良夫……?」
声をかけても答えない。
そのうち良夫は、もそりと動きだした。
手を目のあたりに上げ、何かをぬぐっている。
何回かそれを繰り返した後、服の袖で鼻をこすった。
……声も出さずに泣いている……。

全員、何も言えなかった。
みんなが良夫の気配に、意識を集中させてうつむいていた。
「葉子ネエ、黒い影って……どの辺にあったんだよ?」
突然、良夫が思い立ったように、顔をあげた。
そして、鳥居へ続く石段を駆け上がる。

「犯人を捕まえてやる!!」
「駄目だ、良夫!」
泰明さんが後を追う。
同時に、哲夫おじさんも。
何人かが、石段を駆ける音がした。
正美おばさん、それとも由香里姉さん?

「良夫、一人で行ったら危険よ……あっ!!」
叫んだのは、由香里姉さんだった。
1.確かめる
2.走って逃げる