晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>Y5

「なんてことをいうの。
そんなこと、あるわけがないわ。
私、良夫を本当にかわいがっているもの。
でも……そうね、たまに思うわ。

子供って、親がどんなに想っているか、わかってるのかしらって……」
和子おばさんの背中が、やけに寂しくみえた。
母親って、みんなこんなことを思うのかしら。
そうこうしているうちに、石段を上りきった。

和子おばさんと二人で、お堂に行く。
「じゃあ、お堂に向かって手をあわせて。これでお宮参りは終りよ」
手をあわせ、目をつぶる。
肩から、少し力が抜けた。

「いったん戻りましょう。それからもう一度ここに来るわよ。今度は、少し残酷なことをするけれど……」
背中がヒヤリとする。
そうよ、残酷なお参りってことだったのよね。
一体、何をするっていうのかしら。

「和子おばさ……」
「さあ、葉子ちゃん、早く帰りましょう」
和子おばさんは、一人でさっさと歩き始めた。
「あっ、待ってくださ……」
その時、ゴトッと、何かが落ちる音がした。
ふいに視界が暗くなる。

和子おばさんが、懐中電灯を落としたんだわ。
「ぎゃああぁ!」
突然、和子おばさんが叫んだ。
「おばさん? どうしたんですか!?」
「う、ぐう……」
返事の代わりに、うめき声が聞えてきた。
石段の、下の方から。

まさか落ちたんじゃ……。
「和子おばさん!!」
手探りで、懐中電灯を拾う。
下を照らすと、和子おばさんが胸を抱えて苦しんでいた。
「苦し……息……ぐ……」
必死で息をしようとして、ゼイゼイいっている。
胸を打って、息ができないようだった。

その時、背後で何かが動く音がした。
木の葉を踏むような音。
誰かいるの!?
目をこらすと、黒い影が木の間に隠れ去った。
1.影を追う
2.和子おばさんの様子を見る