晦−つきこもり
>七話目(前田和子)
>AA3

「そんなの、信用できないわよ!」
「ひどいな。何だよ、でれでれしちゃって。泰明おじさんなんて、たいしたことないじゃん」

「うるさいっ!」
どなってやると、良夫は口をふくらませ、すねてしまった。
「ふん……」
何やら、ぶつぶついっている。
無視、無視。
……そうこうしているうちに、和子おばさんが、白い箱を持って入って来た。

「おまたせ」
そういって畳に座り、箱を開ける。
中には、白い着物を着た日本人形が入っていた。
首のところが真っ二つにもげている。

「きゃっ……!」
「あら、駄目よ葉子ちゃん。怖いでしょ、あまり見ない方がいいわ。
今までこの人形を使って、何度もお参りをしていたから、こんなになってしまったの」
思わず後ずさった私に、和子おばさんは、右手を差し伸べた。

「さあ、葉子ちゃん。髪の毛を一本ちょうだい」
「か……髪の毛?」
「このお参りに必要なの。さあ……」
和子おばさんの鼻の頭に、じっとりにじんだ汗が見えた。
よく見ると、手のひらにも汗が浮かんでいる。

一体、どうしようというんだろう……。

「このお人形はね、葉子ちゃんの身代わりになってくれるのよ。葉子ちゃんの髪の毛を人形のふところに入れて、お参りに行くの。そうすれば、人形が赤い靴の女の子の厄を、代わりに受けてくれるのよ」
和子おばさんは、私の目をまっすぐに見つめた。

私も、和子おばさんから目が離せない。
「さあ、葉子ちゃん。髪の毛を抜いて……」
1.抜く
2.断る