晦−つきこもり
>三話目(前田和子)
>G5

今、ヘタには動けないわ。
私は、一人で隅の方に行った。
「葉子、どうしてわからないの?
そんなことしたって、追い詰められるだけだよ。
二人で逃げようってば!」

由香里姉さんが、こっちに一歩進んできた。
「待てよ、それ以上葉子に近付くとひどいぞ」
良夫が割りこむ。
「ひどいって何よ。あんたみたいな子供に何ができるっていうの?」

「ふざけんなよ。いいか、お前には『印』があるんだからな。へたなことをしたら殺すぞ」

「やめなさい! 由香ちゃん、この子のいうこと、本気にしないで。
本当はあなたに『印』をつけるつもりはなかったのよ。でも、あなたが儀式を見てしまったから……しょうがなかったの。ごめんなさいね」
和子おばさんが、申し訳なさそうに謝る。

その瞳は、まさしく今までの優しいおばさんのものだった。
もう、わけがわからない。
これは、本当に現実なの?
「しおらしくしたって駄目よ。何の神だか知らないけど、人の命を要求するなんて。私は人柱なんてまっぴらよ」

「わかった、わかったわ、由香ちゃん。とにかく落ち着いて話をしましょう。
ね、聞いて……」
和子おばさんは、疲れたような顔で、ゆっくりと語り始めた。

「……葉子ちゃん、驚かせてごめんね。うちにも、色々事情があるのよ。
由香ちゃんに『印』をつけて守り神にしようとしたのは本当よ。
但し、人柱にしようとしたわけじゃないわ。……全部話すから、私の後についてきて」

「かあちゃん、あそこに行くのか?」
「ええ、葉子ちゃん達さえよければね」
何だろう。
一体、どこに行くっていうのかしら。

「葉子、どうするのよ」
由香里姉さん……。
好奇心にあふれた瞳。
由香里姉さんは行きたいのかしら。
どうしよう?
1.行く
2.行かない