晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>J6

まあ、葉子ちゃんったら。
自信がなくなったんですのね。
では、話を続けましょう。

少年は活発な性格で、よく友達といっしょに校庭を駆け回っていたそうです。
あまり夢中になって、クラスで面倒を見ている金魚の世話を、つい忘れてしまうこともあったのですって。
そんなとき、園部さんは代わりに世話をしてあげました。

自分は、こういうことが好きだからといって。
実際、彼女は本当に、生き物が大好きだったそうですわ。
けれど、それよりも好きな人に何かしてあげたい、という想いが強かったんだと思いますわ。
けなげですわよねえ。

ところが、もう一人の『彼女』が、それを嫌がったらしいのです。
園部さんは、もう一つの人格を『ミドリ』と呼んでいました。
そのミドリちゃんにしてみれば、園部さんが自分以外の誰かを気にかけるのが、面白くなかったのでしょうね。

園部さんの意識から、無理矢理彼女の体を奪い取ったのです。
そして、金魚の水槽を、ひっくり返して壊してしまったのですわ。
水槽が割れ、床の上に水が流れ出しました。
ミドリちゃんは、はねる金魚をつかんで、カッターで割いてしまったのです。

園部さん自身は、それをどうすることもできずに、ただ見守るしかないのですって。
それからミドリちゃんは、園部さんが大切にしている鏡をポケットから出すと、床に叩きつけました。

「この鏡が見つかれば、疑われるのは誰かしらねえ」
そういって、ミドリちゃんは笑ったそうですわ。
幸い、そのときは水槽のガラスが散らばっていたせいもあって、誰にも気づかれなかったそうですが……。

ミドリちゃんは、それからも園部さんを困らせ続けたそうです。
例えば、校庭で飼っている小鳥たち。
園部さんが悲しむことを知っていて、ミドリちゃんはわざと小鳥を殺し、羽根をむしりました。

ところがそのとき、ある意外なできごとがあったのですわ。
葉子ちゃん、何だかわかりますかしら。
1.小鳥が逃げてしまった
2.好きな男の子に見られた