晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>J9

まあ、葉子ちゃんったら。
自信がなくなったんですのね。
では、話を続けましょう。

園部さんは、帰ってしまったものの、少年のことが心配でしょうがなかったそうですわ。
だから、次の日学校に来た彼を見て、ホッとしたそうですの。
そして授業で調理実習があったのを幸い、少年へのプレゼントを作ろうとしたのですわ。

けれども、ミドリちゃんはまたしても、彼女の邪魔をしようとしました。
園部さんの意識を押しのけて、体のコントロールを奪ったのです。
それから、ポケットに忍ばせていたガラスのかけらを、調理実習のカップケーキのなかに押し込んだのですわ。

園部さんは、必死にやめさせようとしました。
それでもミドリちゃんの意志の方が強いのでしょうね。
園部さんなど存在しないかのように、ミドリちゃんは少年のところへ、カップケーキを持っていったのですって。

「これ、調理実習で作ったの。
食べて……」
それを聞いたときの、少年のこわばった表情。
あれは一生、忘れられないだろうと、彼女はいっていましたわ。

少年の目には、園部さんは自分を殺そうとした、恐ろしい相手にしか見えなかったのでしょう。
彼女の心は、深く傷つきました。
けれどミドリちゃんはお構いなしに、ケーキを押しつけるのです。

葉子ちゃん、その少年は、カップケーキをもらってくれたと思います?
1.もらってくれた
2.もらってくれなかった