晦−つきこもり
>三話目(前田良夫)
>J4

うん、されたよ……。
腰のとこ、思いきりつねられたこともあった。
なんで腰かっていうと、裸になんないと、わかんないからなんだって。
その頃って、あいつが風呂に入れてくれてたからさ。
母ちゃんだって、気づいてなかったと思う。

風呂っていえば、湯船の中で、足を持ち上げられたこともあったなあ。
もちろん、ひっくり返ってボチャンだよ。
それで俺が泣くと、いかにも心配そうな顔するんだ。

私の世話がへただから……なんつってさ。
大人はみんな、だまされてたんじゃないかな。
だけど、あるときから急に、あいつの態度が変わったんだよ。
やさしくなっちゃってさ。

俺、嬉しかったな。
だって、あいつって普通にしてれば、やさしそうで可愛い顔してたんだ。
ニコニコしてくれるだけで、俺はあいつのこと、好きになったよ。
それが、どんな意味を持ってるかなんて……考えもしないで。
そうだ……あの頃、うちには小鳥がいてさあ。

いつも二羽で、なかよくさえずってたっけ。
あるとき、俺は小鳥のカゴの前へ、連れてかれたんだよ……。
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目をつむったままの、良夫の顔が曇った。
ちょっと苦しそうに見えるわ。
どうしよう?
1.肩を揺すってみる
2.話しかける