学校であった怖い話
>一話目(荒井昭二)
>A3

そうです。体育館です。
その場所に、この付近の学校の中でも一番といわれる立派な体育館を建設したわけです。
建設会社の人の数も大変多く、それは大変活気に溢れていたそうです。
近所の人が毎日見学に来ていたほどでした。

でも、よく考えて下さいよ。
体育館といったら全校生徒が一堂に会することもある場所なのによくそんな物をあそこに建てたって……、ちょっと疑ってしまいますよねえ。
保健の先生がいってました。

えっ? ああ僕、保健委員ですから。
「この前けが人の記録ノートを整理していて気づいたんだけど……、8月の初めって、必ずけがをする生徒がいるのよね、それもみんな骨折なの。偶然しては変ねえ」
そして、こんな話も……。

当時この学校は野球の名門校で、甲子園に出場する学校の常連にもなっていたんですけど、校長は、インドアのスポーツも盛んにしたかったらしく、そういったことから体育館の建設を決定したんです。

単純ですねえ。
あなたもわかるでしょう、人気のある部活は、どこの学校でもすぐいっぱいになってしまい、レギュラーの座につけない生徒は、補欠で細々と活動するしかないんですよね。
そう、ひどい所は補欠にもなれない雑用部員でしかない。

当時、野球部所属で三年生の浅田茂君もその一人でした。
彼は、目立たなくおとなしい性格だけど、野球に対する情熱は人一倍持っていました。

でも、彼もレギュラーの座をつかむことなく、補欠にもなれず、後輩に混じって球拾いをやらされていたわけです。
レギュラーになれない生徒は、部活をやめてしまうことも多いのですが、彼はまじめに野球部員として活動をしていました。

「次の試合が高校生活で最後になるから、せめて応援でがんばりたい……」
と、マウンドにも立てないのに、とても楽しみにしていたそうです。
彼がいつもと同じく、後輩に混じってボール拾いをしていたとき、ピッチャーの暴投で建設中の体育館にボールが入ってしまったんです。

普通、後輩に取りに行ってこいとかいいますよね。
でも、彼はとても気がよかったので
「いいよ、僕が取ってくるから」
といって立入禁止のロープをくぐって中に入っていきました。

中に入ってみると体育館は、ほぼ完成しているように見えました。
もう夕方だったので建設会社の人はおらず、しんと静まり返っています。

鉄骨を組合わせたドーム型の天井に
「カキュイーン、カキュイーン」
という、金属バットでボールを打つ音が妙によく響いていました。

そんな音を聞いていると、何かせつないような不思議な気持ちになってきます。
自分が、野球部に入部してからのこと……。

「レギュラーにはなれなかったけど楽しい三年間だった……、好きな野球ができたんだから幸せだったなあ……、はっ、こんなこと考えてる場合じゃない。早くボールを探してもどらなきゃ」

彼は、薄暗い体育館をくまなく探しました。
「どこにもないなあ……」
ふと脇を見ると小型のコンクリートミキサーが置いてあります。
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