学校であった怖い話
>一話目(荒井昭二)
>E3

あなた、この話を知ってましたか?
体育館の裏に、花壇があるでしょう。
あれが実はその場所だったんです。
昔いた先生が、あまりにあそこで事故が起きるので花壇にしたんですよ。

花壇にしたからといって、誰も人が入らなくなったわけではありません。
花壇を世話する園芸部の人たちは始終、出入りしましたからね。
それでも、どういうわけか、それっきり事故はおきなくなったんです。

まあ、それまでに比べたら、めっきり人の出入りは減ったわけですからね。
そのためか、それとも花壇を作ったことが功を成したのか、その理由は定かではありません。
それでも、何も起きなくなったのは事実です。

でも、花壇を作ったころは、みんな気をつけていたんですよ。
あのころは、あの事故のことを誰もが知っていましたからね。
園芸部の人たちも、最初は恐る恐る花壇の世話をしていたらしいですよ。

それが一年経ち、二年経ち、五年経ち、十年もすると、誰もそんなことを気にはしなくなりました。
忘れてしまったんです。
あれ以来、事故は一度も起きませんでしたから。
だからといって、大きな花壇があるわけですから、めったなことでもない限り、誰も花壇に入ろうとはしません。

幸い、花壇を荒らそうなどという不届き者も現れませんでしたし。
もし今、事故が起きたとしても、昔からいる先生以外は、誰もあの呪われた場所のせいだとは思わないでしょう。

でも、僕はあそこにはまだ地縛霊が潜んでいるのだと信じています。
確かに足を掬われて転ぶようなことはなくなったにしても、あんなことが起きるくらいですから。

あんなことというのが、これから僕がお話ししようと思っているものです。
あ、皆さん。
僕が、どうして今となっては誰も知らない花壇の話を知っているのか不思議に思ってますか?

思って当然です。
今でさえ、知っている人は本当にごくわずかですから。
僕が体験したわけではないですが、嘘を言っているのではありません。

これは、事実なんです。
実話なんですよ。
疑っているのなら、あとで花壇に行ってみるといいでしょう。
もちろん、僕は責任を負いかねますけど。
僕が、誰からこの話を聞いたかは、……まあ、いいじゃないですか。
今、それを問題にする必要はないんですから。

あれは、六年前のことでした。
当時の園芸部には。早坂桃子さんという、とても花の好きな女性がいたんです。
早坂さんは、物静かな方で、どちらかというとあまり明るいほうではありませんでした。
でも、笑うとエクボがとてもかわいらしく、素直で心の優しい人だったんです。

毎日、放課後になると、彼女は花壇の世話をしていました。
まるで、花が自分の血をわけた姉妹でもあるかのように。
親身になって、いたわるように世話をしたのです。
園芸部の誰よりも。

花は生き物ですから。
そんな早坂さんの気持ちが伝わったのか、花も愛情に応えて見事な花を咲かせました。

ふだん、花に興味のない一般生徒たちも、みな花壇の前を通ると足を止め、その美しさに見入ったものです。
先生たちも、早坂さんが手入れをするようになった花壇を、実に見事だと感嘆の声を漏らすほどでした。
季節は六月になりました。

紫色の紫陽花が、雨水に濡れて、美しい花をあの花壇いっぱいに咲かせていたことのことです。
その年の梅雨はいっそうひどく、太陽など一日も拝めなかったほどでした。

毎日のように雨が降り、みんなの気持ちまで、めいるような日が続きました。
花っていうのは、雨ばかりでもまずいそうですね。
日の光が当たらず、雨続きだと、育つものも育たなくなってしまいます。

それで、早坂さんは、雨の日も毎日毎日、花の世話に追われました。
もちろん辛いことなどありません。
花の世話ができるのが嬉しくて毎日せっせと面倒を見ていました。
でも、それが、たたったんです。
あまり身体が丈夫なほうではありませんでしたから。

もうすぐ、梅雨も終わるだろうというある日、彼女は肺炎で寝込んでしまったんですよ。
寝込んでも、彼女の心配は花壇のことばかりでした。

自分が学校にいけないのが辛く、苦しく、花が無事に育っているか、来る日も来る日も気にしていました。
彼女のかかった肺炎は大変に重いものでした。

一週間を過ぎても熱は下がらず、容体は悪くなる一方でした。
その時、花はどうなっていたと思います?
1.花は無事育っていた
2.花は枯れ始めた