学校であった怖い話
>一話目(岩下明美)
>A5
そうよね、あなたのせいじゃないわ。
だったら、そんなにおどおどすることないでしょ。
あなたが悪いんじゃない。
悪いのは、いじめっ子たちよね。
それとも、いじめられた内山君に責任があるって言うのかしら?
……それからだったわ。
内山君に、変なものが見えるようになったの。
学校のみんなが、悪霊に見えたのよ。
悪霊の顔って、どんな顔だか知ってる?
そりゃあもう、恐ろしい顔よ。
耳がとがっていて、目はつり上がり口は醜く裂けていて、中から牙が覗いているの。
もっと具体的に言うと、そうねえ……今のあなたの顔、私には悪霊に見えるわ。
ふふふ……冗談よ、冗談。
結局、誰も助けてくれないまま、内山君は学校に来なくなった。
悪霊ばかりが通う学校、そんなところ、恐ろしくって私だって行けないわ。
それで、学校を辞めたの。
内山君、三週間ほど前に学校を辞めちゃったでしょ?
そういう理由だったのよ。
内山君が、いじめられておかしくなってしまったのか。
それとも、本当にみんなが悪霊に取りつかれていたのか。
どっちでもいいことかもしれない。
内山君が学校を辞めたって、いじめっ子たちは今も平然と学校に通ってきてるもの。
え? 私はどう思ってるかって?
そうね、私は、みんなに悪霊が取りついていたってことを信じるわ。
そうでもなければ、あんなことがあったのに、みんな平然と学校に通えるなんておかしいわよ。
同じクラスメートだったあなたたちがね。
あら?
あなた、震えてるの?
震えなくていいのよ。
内山君の話には、続きがあるの。
学校を辞めた内山君が、どうなったか知ってる?
知らないわよね。
ほとんど付き合いもなく、学校を辞めたクラスメートのその後なんて興味ないものね。
内山君ね、あのあとも悪霊を見続けたのよ。
悪霊は、よっぽど内山君のことを気に入っていたのね。
それで、いじめっ子たちに内山君のことをいじめさせていたのかもしれない。
学校を辞めてしまって、誰とも付き合いがなくなった彼を、悪霊は追いかけたの。
彼の家まで行って、内山君のそばから離れなかったのよ。
それで内山君はどうしたと思う?
戦ったのよ、悪霊と。
それでも悪霊は、内山君から離れなかったわ。
そして、ついに取りついてしまったのよ、内山君に。
悪霊に取りつかれた彼は、必死で戦ったわ。
そして、自分の喉をカッターで切ったの。
悪霊にとどめを刺すためにね。
自分の喉にカッターをつきたて、やっと悪霊を退治したのよ。
何度も何度も、喉をカッターで切ってね。
……三日前のことだったそうよ。
お母さんが、彼の部屋に入ったとき、部屋中が血で真っ赤だったそうだわ。
でも、それでようやく、内山君は悪霊から解放されたの。
これで、内山君の話は終わり。
あなた、知らなかったでしょ?
……ところで、私が何でこの話をしたかわかる?
どうしたの?
顔が真っ青よ。
何を怖がっているの?
怖くないのよ。
何も、怖がることはないの。
あなたは、これから責任を取ればいいんだから。
それが、当然の義務なんだから。
私がこの話をしたのはね、あなたに内山君がどんなに苦しんだか、どんなに痛かったかを知ってもらうため。
私、知ってるの。
あなたが内山君をいじめていたことをね。
内山君をいじめたグループのリーダーが、あなただってことをね。
そうでしょ!
1.僕はいじめていない
2.確かに僕がいじめた