学校であった怖い話
>一話目(福沢玲子)
>A1

私が最初の話をするの?
……そうね、何を話そうかな。
あ、その前に自己紹介をしておくわね。
私の名前は、福沢玲子。
今年の春、入学したばかりのバリバリの新入生です。
先輩の皆さん、よろしくお願いしまーーす。

えーと、坂上君だっけ?
あなたとは同じ一年なのに、会ったことないわよね。
まあ、この学校、広いから。
それとも、いつもさぼってるのかしら?
あはははは……。
そういえば、あなたが体育館の裏でさぼってるの、
見かけたことある。

うそよ、うそ。
あ、ごめん、ごめん。
怖い話だったわよね。
それじゃ、いい?

どのクラスにも、一人は変な子っているでしょ?
いじめられっ子とか、存在感が薄いとか、そういうのじゃなくて。
何か、みんなと違うのよ。
どっか、おかしいの。

みんなと、考え方とか行動とか、どこか違うのよ。
ピントがずれてるっていうか、この世の人ではないっていうか。
……うーん、うまく言い表せないなあ。
そういう子、うちのクラスにもいるんだよね。

うちのクラスってのは、G組だよ。
名前は、元木早苗っていうの。
早苗ちゃんは、本当に変なんだよ。

例えばさあ、調理実習のときとか、包丁使うでしょ?
早苗ちゃんに包丁持たせると、じーっと見つめちゃうんだよねえ。
ニタニタ笑いながらさあ。
それで、
「これで、目を突き刺したら痛いよねえ」
なんて、呟くんだよ。

見てるこっちは、びっくりしちゃうよね。
それで、包丁の先を自分のほうに向けるのよ。
そして、しばらくの間、そのままの姿勢でじーっとしているの。

そのあと、大きくため息をついて「あー、怖かった」
とかいうんだよ。
その間、私たちなんか、固まっちゃってさあ。
どうなることかと、身動きできずに黙って見守ってたんだから。

そうかと思うと、包丁でちょっと指を切ると、わんわん大声で泣き出すし。
たいした血じゃないのよ。
それなのに、大げさに泣くのよね。
何があったかと思って、私のほうが驚いちゃった。

それから、お弁当を食べるとき、いつも食べる前に十分以上お祈りしてんの。
何言ってるかわかんないけど、小さな声でブツブツブツブツ呟いてるんだ。

それから、何度も何度もお弁当箱にお辞儀するの。
それで、
ようやく食べ始めるんだよ。
信じらんないよね。

食べるときも、あれは三十回以上は噛んでるよ。
だって、食べるのものすごく遅いもの。
お昼休み、めいっぱいつかって、ご飯食べるんだよ。
それで、食べ終わるとまたお弁当箱にお辞儀して、ブツブツブツブツお祈りを始めるの。

危ないよねえ。
怖いよねえ。
でもね、頭が悪いってわけじゃないの。
結構、勉強できるんだよね。
いつも、試験とかで上位に食い込んでるもの。

それに、いじめられるわけでもないの。
女の私からいうのもしゃくだけど、結構かわいいんだよ。
誰にも好かれる顔っていうのかなあ。

ああいう子って、得だよね。
私も、早苗ちゃんのことさあ、憎らしいなって思うときもあるけど、まあ、いいやってすぐに許せちゃうもの。

実は、結構、仲がいいんだ。
私も、変なのかもしんない。
それに、早苗ちゃんて変だけど、おもしろいんだよ。
この前なんか、いきなり教室の中で天井見ながら、くるくる回り出すの。

「どうしたの?」
って聞いたら、
「くらくらして目が回るの。だから、反対のほうに回ってるの。そうすれば、直るんだよ」
だって。

そんなので、直るわけないじゃん。
あきれちゃったよ、私は。
でもさ、早苗ちゃんがいうと、笑えちゃうんだよねえ。

そういう子、あなたのクラスにもいない?
でもね、早苗ちゃんが変なのは、それだけじゃないんだよね。
すごい秘密があったの。
私、偶然その秘密を見ちゃったんだよ。

この前さ、体育のあった日、早苗ちゃんは気分が悪いって休んでたのね。

最初は授業を見てたんだけど、横になりたいからって保健室に行ったの。
顔、真っ青だったもん。
本当に気分悪かったんだよね。

その時、体育の授業は、女子はバレーボールやっててね。
私、突き指しちゃったんだ。
痛いよね、突き指。
それで、保健室行ったの。

そしたらね、先生はいなくて、早苗ちゃんが一人で寝てたの。
頭まで毛布をかぶって、がたがた震えてるのよ。
声をかけようかどうしようか、迷ったわ。

何だか、ベッドごと揺れそうなほど震えてるんだもの。
今にもベッドが暴れだしそうなの。
声をかけちゃいけない雰囲気だったわ。
1.声をかけてみる
2.このままそっとしておく
3.先生を呼びに行く