学校であった怖い話
>一話目(福沢玲子)
>G4

私、なめてみたの。
早苗ちゃんだってなめていたし、それで倒れたわけでもなかったからね。
なめても死なないだろうと思って。
そしたら……。
それ、ココアの粉だったの。
ビンを空けた途端、ココアの甘い匂いがしたわ。

あはは、おいしかったよ。
早苗ちゃん、化学室にココアなんか隠して、先生の目を盗んでお湯沸かして、よくビーカーかなにかで飲んでるんじゃないかしら。

なんだかなあ……。
変わった子だよね。
まあ、そこがおもしろいんだけど。
その時私、思ったよ。
具合が悪くて疲れてたから、甘い物が欲しくてココアをなめにきたのかな、って。

それでもう一回、保健室に行くことにしたの。
だって早苗ちゃん、すごく青い顔していたんだもの。
今思えば、その時「ケツ」って言葉のこと、すっかり忘れてたなあ。
早苗ちゃんが、なんで枕カバーにあんな紙切れを入れたのかって疑問が、どこかにいっちゃってたの。

……保健室に行ったら、早苗ちゃんがベッドに寝ていたわ。
「早苗ちゃん」
私が声をかけると……。
ベッドが、ぎしぎしって動いたの。
まるで、ベッドに返事されたみたいだった。

「さ、早苗ちゃん」
又、ベッドのきしむ音。
今度はもっと激しくて。
「さな……!」

早苗ちゃんが、いきなり飛び起きて!
同時にベッドがギイギイいって、私、力の限り叫んだわ。
「きゃーーーっ!!」
そしたら早苗ちゃん、こんなこというのよ。
「玲子ちゃん、おちついて!
この子は、悪い子じゃないの」

この子?
この子って誰よ?
私、もう混乱してて、ギシギシいうベッドに保健ノートとかプリント紙とか、手当たり次第に投げ付けたの。
そんなもの投げても、しょうがないのにね。

「玲子ちゃん、このベッドは生きてるの。
でも、悪い子じゃないよ。
私が血の儀式をして、魂をふきこんであげたんだ」

血?
血の儀式?
早苗ちゃん、何言ってるの……?
「あのね、今日具合が悪くてここで寝てたらね、
ベッドが話かけてきたの。
えっとね、話しかけてきたっていうか……。
感じたの。

ベッドが、生きて動きたがってるなって。
それで私、どうしたらベッドに命をふきこめるかなって考えて。
分かったの。

「ケツ」って書いた紙を、ベッドに入れておくの。
「ケツ」って、「血」って意味だよ。
「血」て、ケツとも読むでしょ。
何でそうすればいいって思ったのか分からないけど、確かにそう感じたの」
早苗ちゃんがこんなこと言いだしたから、私なんだか怖くなっちゃって……。

だって変じゃない?
早苗ちゃんて、血を見ると泣き出しちゃう子なんだよ。
なのに、何でこんな不気味な申し出を受けるわけ?
「ケツ」なんて字まで書いて。

血を見るのはだめでも、血の儀式なら平気なの?
それに、何でベッドが話かけてくるわけ?
早苗ちゃんに、命をふきこんでくれなんていうわけ?
いうっていうか……感じさせたんだっけ?
そりゃ早苗ちゃんって、霊感強そうだけど。

「玲子ちゃん、このベッドはね、具合の悪い人を快適に眠らせる為に、命が欲しいって思ったんだって。
冬には暖かくつつみ、
夏には布団の位置をずらしたりして、涼しくしてあげたい……。

そんなことを思ってるんだって。
だから、協力してあげたの。
ね、悪い子じゃないでしょ、このベッドは」

ベッドは早苗ちゃんの言葉を聞くと、嬉しそうにぎいぎいと音をたてたわ。
でも、なんか変よ。
何でベッドが、人間に尽くしたいなんて思うわけ?
そんなこと考えてたら、なんだか突き指したとこが痛みだしてね。でも手当している場合じゃないし……。

私が黙り込んでいたら、早苗ちゃんは又ベッドに横になっちゃった。そしたらベッドは更に嬉しそうにぎしぎしいったの。
あなただったら、
こんな時どうする?
1.早苗ちゃんを起こす
2.立ち去る