学校であった怖い話
>二話目(新堂誠)
>A3

そうか、そうか。
わかるぞ、その気持ち。
それでな、その飴玉ばあさんなんだけどな。
なぜか、一度飴をあげた人間の前には、姿を見せないんだってよ。
さっきの奴の話。

フランスでシェフやってる奴。
あいつもね、あの飴の味が忘れられなくて飴玉ばあさんを捜したんだよ。
通用門の前で待っていれば会えるかと思って待ってたんだけど、いつまでたっても現れないんだよな。
そのくせ、そいつがいなくなると、どこからともなく現れて、ほかの奴に飴をあげるんだって。

不思議だろ?
そいつ、ずいぶんとあちこちを捜したらしいけれど、結局見つからなかったのさ。
今、通用門のところにいたって噂を聞いて急いで駆けつけても、いなくなってるんだ。
まるで、そいつから逃げるようにしてさ。

それで、そいつ諦めて、自分で何とかしてあの飴を再現しようとして調理学校に入ったんだってよ。
すごい執念だよな。
でも結局それに挫折して、普通の調理人になったんだってよ。
でも、それで正解だよな。
フランスでシェフだもんな。
すごいよ、まったく。

それからは、飴玉ばあさんは、ちょっとした時の人さ。
飴玉ばあさんを待って、通用門はいつも人だかりができていた。
どっかの芸能人を追っかけるようなもんだな。

まるで、ファンクラブでもできそうな勢いだった。
みんな、飴玉ばあさんの飴をなめたいためだけだった。
たかが飴っていってしまえば、それまでだけれどな。

それでもよ、なぜかたくさん人がいるときは現れないんだよな。
みんな、もう飴玉ばあさんは現れないんだと思って集まらなくなると、どこからともなく現れるんだよ。

それで寂しそうな奴に飴をあげる。
その噂を聞いて、また人が集まる。
けど、現れない。
それで人がいなくなると……。
その繰り返しさ。

でもな、みんながその飴を欲しがった理由は、ただうまいだけじゃなかったんだ。
もちろん、そんなにうまい飴をなめてみたいと思う単純な奴もいただろうけれど、みんなの狙いは、飴をなめたあとのその後の人生なんだよ。

その飴をなめた奴は、なぜか急に明るくなるんだよな。
フランスでシェフになったあいつみたいに。

妙に自信がわいてくるというか、何をやっても成功しちまうんだ。
勉強の苦手だった奴はいきなり成績が上がり、運動神経のなかった奴は、突然スポーツマンに変身してしまう。
そして、ばら色の学園生活が待ってるってわけさ。
夢のような話だろ。

飴玉ばあさんは、本物の魔法使いで弱いものの味方なんだって噂が真しやかにささやかれるようにまでなったのさ。

その噂、信じる奴も多かったらしいぜ。
飴玉ばあさんの飴、すごくなめたいよな?
1.なめたい
2.なめたくない