学校であった怖い話
>二話目(新堂誠)
>C7

佐久間は、気味が悪くて仕方がない。
とにかく中に入れてはいけないと、本能で感じていた。
部屋には鍵がかかっている。
無視していれば、諦めて帰るはずだ。
佐久間は、気を落ち着けようと深呼吸した。

「……なあ、返しておくれよ」
「うわあっ!」
佐久間は、大声を上げた。
ばあさんの声が、背後で聞こえたのさ。

振り向くと、どうやって入ったのかばあさんが立っていた。
慌ててドアを見ると、しっかりと鍵は掛かっている。
佐久間は、改めて気づいたのさ。
このばあさんは人間じゃないって。

「……や、やめてくれよ。俺が悪かったよ。
許してくれよ」
佐久間は怖くて、怖くて、必死に謝ったんだ。
けれど、ばあさんは佐久間の言葉など聞いていなかった。

「飴は好きかい?」
「ご、ごめんなさい。もう、しません」
佐久間がどんなに謝ろうと、ばあさんはお構いなしで、次々と質問を浴びせてきたんだ。
「お前は、飴がほしいのかい?」
「飴は、おいしかったかい?」
「飴をいくつ食べたんだい?」
佐久間は、質問に答えず、ただひたすら謝り続けた。

ばあさんは、佐久間の眼前にしわくちゃの顔を近づけて、ニタニタと笑ったのさ。
そして、言った。
「……なあ、飴玉を返しておくれよ」
「ごめんなさい。もう、ないんです! 食べちゃったんです!」
ばあさんは、震える佐久間の顔をものすごい力で、ぐっとつかむと、まじまじと見つめたのさ。

「何言ってるんだい。ちゃんと、あるじゃないか。こんなにおいしそうな、目玉が二つ……」
「ぎゃあ〜〜〜〜〜!」

佐久間の絶叫が家中に響き渡った。
その声に驚いた家族が、佐久間の部屋に行ってみると……。

……部屋中、血の海だった。
もう、どこにもばあさんの姿はなかった。
ただ一人、部屋の中央で、血だらけの顔を押さえた佐久間が、転げ回っていたんだ。

「目が……! 目が痛いよ!」
びっくりした母親が、佐久間の顔から押さえる手を引きはがすと……目がなかったんだ。

目があるべきはずの場所に、ぽっかりと黒い穴が開いているだけだった。
その後、佐久間は気が変になって、学校をやめてしまったそうだ。それからさ。

飴玉ばあさんが現れなくなったのは。
ただ、数年前から、時々生徒通用門に、サングラスをかけた男が現れるんだってさ。

そいつは、とあるごとに生徒を呼び止めると、サングラスをはずして……。
「……僕の目玉を返しておくれよ。あれは、飴玉じゃないんだよ。……ねえ、返しておくれよ」
って、か細い声で泣くんだそうだ。

そいつには目がなく、真っ黒な穴が二つ開いてるだけなんだってよ。
お前、会ったことないだろ?
いつ、会うかわからないぜ。
気をつけな。

……ところで、坂上。
お前、さっき、飴玉ばあさんに会いたい、飴を食べたい、って言ったよな?
1.いった
2.いわない