学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>A6

「出てこい! 出てくるんだ!」
桜井先生は、振り向くと懐中電灯をメチャクチャに振り回しました。
……しかし、一筋の細く伸びた明かりは、何も照らし出してはくれませんでした。

「どこだ! どこにいるんだ!!」
桜井先生は、わざと足音が大きくなるようにドカドカと床を踏み荒らし、目的もなく歩き回りました。

何とそれに合わせ、足音もついて回るじゃないですか。
桜井先生が歩けば、足音も聞こえる。
しかも、足音の大きさに合わせ、もう一つの足音も全く同じ大きさで聞こえてくる。
必ず、自分の背後から……。

そして、歩くのをやめれば、まるで桜井先生の心を読んでいるかのように、その足音もぴたりと止まる。
「どこだ! どこだ!」

桜井先生は、そう叫びながら、旧校舎の中を走り回りました。
そして、どんな速さで走ろうとも、足音も必ず同じ距離を保ちながら的確についてきたのです。

「はぁ……はぁ……」
ついに桜井先生は疲れ果て、肩で大きく息をしました。
顔は、汗でびっしょり濡れていました。
蒸し暑いというよりも、むしろ冷汗でした。

……キィキィ。
……キィキィ。
桜井先生は、全神経を耳に集中しました。
なんということでしょう。
もう一つの足音が、背後から聞こえてくるのです。
自分が止まっているのに。

自分の足音が聞こえないのに、今度ははっきりともう一つの足音だけが聞こえてくるじゃないですか。
そして、ある程度保たれていた距離が、どんどん狭まってくる。
その距離が狭まるについて、後ろから冷たい風が吹いてくるような気がする。

そしてついに、足音は桜井先生の背中に寄り添うようにして、ぴたりと止まったのです。
まるで、冷凍庫の中に顔を突っ込んだような寒さでした。
確かに、何かが後ろにいるのです。
人間ではない何かが……。

今なら、それが見えるような気がする。
振り向いて確かめるべきか。
それとも、走り出して逃げようか。
もう、選択は二つに一つしかないのです。
1.振り向く
2.逃げる