学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>F6

先生は、とりあえずこのまま様子を見ようと、じっと耳を澄ませました。
その方が賢明かもしれないと……。
侵入者の立てる物音は聞こえず、聞こえるのは風で窓ガラスがカタカタという音と、自分の心臓の鼓動だけです。

侵入者の息づかいが、自分を取り巻く空気の流れに乗って流れているような気もします。

自分が見えないところで、じっとこの背中を見つめているであろう侵入者……。
「こちらの出方をやはり待っているのか?」
背後で、侵入者の気配がするようなしないような……。

桜井先生は、そんなはっきりしないあいまいな雰囲気の中で、どうして良いのかわからない状態のまま突っ立っているだけです。

手には、じっとりと脂汗がにじんでいます。
「こうしていても、らちがあかんな……」
ゴトッ、

「しまった!」
先生は、思わず手に持った懐中電灯を取り落としてしまいました。
落とした懐中電灯がはずみで、スイッチが入ってしまったようです。
「こうなったら……」
桜井先生は急いでそれを拾うと、
「誰だ!!」

振り向くやいなや、そいつの顔があるであろう辺りに懐中電灯を向けました。
しかし、そこには誰もいません。

とっさに逃げたのかと思い、辺りに明かりを散らしましたが、人影はありませんでした。
とっさに逃げたとしても、その瞬間は肉眼で捕らえられるはずですし、それなりのスピードで動けば、床板がきしまないはずはない。それなのに、そういった気配は全く感じられませんでした。

「……おかしいな」
桜井先生は首を傾げると、明かりを照らしている辺りに、ゆっくりと足を踏み出しました。

その時でした。
また、もう一つの足音が聞こえ始めたのです。
……桜井先生の真後ろから。
桜井先生は驚いて、足を止めました。
すると、もう一つの足音も止まったのです。

いつの間に、自分の背後に回ったのだろうか。
桜井先生は、懐中電灯を握りしめる手が、がたがたと震えだすのを押さえ切れませんでした。
それでも確かめなければならない。
もし、自分の背後にそいつがいるとしたら、何としてでも確かめなければならない。

そんな使命感にかられ、桜井先生は口にたまった唾をゴクリと飲み込みました。
しかし、怖くて怖くて仕方がないのも事実でした。
1.振り向く
2.振り向かずに逃げ出す