学校であった怖い話
>二話目(荒井昭二)
>A4

桜井先生は、懐中電灯を一本持つと、サンダルを引っかけて旧校舎へ向かいました。
今、目の前に建っている旧校舎はさっき見回りをした旧校舎と同じ物とは思えないほど、大きく見えました。
恐怖心からでしょうか?
そうっと、中に入ると耳を澄ませました。

「何も、聞こえないようだな」
心もとない懐中電灯の明かりを頼りに、ギッ、ギッっときしむ階段を踏み外さないように、確かめながら上がりました。
上がってみて、桜井先生は自分の目を疑いました。

今まで灯っていた明かりが、消えているじゃないですか。
いま上がってきた階段から、二つ先の教室辺りが、確かに光っていたのです。

桜井先生は、息を殺しました。
たぶん、明かりをつけた犯人は、自分が来たことに気づいて、急いで明かりを消したんだ、と。
そうなれば、こちらも慎重に行動しなければなりません。
相手が何者だか、わからないのです。

もし、不意をつかれて物陰から襲われたら、ひとたまりもありません。
桜井先生は、懐中電灯を消しました。

突然、完全なる闇が襲ってきました。
たった一つの懐中電灯の明かりも、あるとないとではこれほどまでに違うのかと、改めて思い知らされました。
思わず、もう一度スイッチを入れてしまおうか迷ってしまったほどです。

それでも何とか思い止まり、恐怖をかみ殺しました。
一筋の光もありません。
月の明かりさえ、角度によって差し込んできません。
完全な闇の中を手探りで進むしかないのです。
「いつっ!」

突然、指先に激痛が走りました。
触ると、指先がじっとりと濡れていました。
なめてみると、血の味でした。
恐る恐るもう一度手を伸ばすと、割れた窓ガラスで切ってしまったようでした。
完全な闇といっても、ある程度時間が経つと、次第に目が慣れてきます。

おぼろげながら、旧校舎の姿が感じ取れるようになりました。
だからといって、容易には動けません。
割れた窓ガラスや突き出た古釘があちこちにあるのです。
桜井先生は、耳を潜めました。
誰かいるのならば、物音が聞こえるはずだ。

相手も息を殺していたとしても、ここは旧校舎だ。
少しでも体を動かせば、床板が音を立てる。
その時を待とう。
桜井先生は、じっと耐えました。
しかし、一向に音は聞こえてきません。
まるで、誰もいないかのように。

「……くっ。しぶとい奴だな」
舌打ちすると、仕方なく桜井先生のほうから動きました。

二階は、一階よりも床板が腐っているのか、辺りがひっそりと静まり返っているだけに、床板のきしむ音はいっそう大きく響きました。
まるで、苦痛に悶えながら死んでいった人たちの怨念が呻いているような、そんな音が歩くたびに聞こえてきました。

……本当に、いるんだろうか?
急に、桜井先生は不安になりました。
そして、自らの恐怖をかき消すために、現状を打破しようとしました。

もう、これ以上は耐えられなかったのです。
1.懐中電灯をつける
2.大声を張り上げる
3.床をドンドンと鳴らす