学校であった怖い話
>二話目(細田友晴)
>A1

こんにちは。
二年C組の細田友晴です。
皆さん、ここに集まるくらいだからよほど怖い話を知っているんでしょうねえ。

坂上君だっけ?
君も、怖い話は好きなのかな?
実は、僕はあまり好きじゃないんだよ。
だから、怖い話もあまり知らない。
本当をいうと、あまり来たくなかったんだな。

でも、日野先輩に、どうしてもって誘われてね。
日野先輩が僕を誘ったのには、理由があるんだよ。
僕は怖い話はあまり知らないし、そういうのはどちらかといえば苦手なほうなんだ。

でもね、怖い体験は多いんだよ。
霊を見てしまう体質っていうのかな。
それとも、霊に好かれてしまう何かを持っているのかもしれない。
とにかく、嫌というほど見てしまうんだ。
霊魂は、どこにでもいるという話を聞いたことがあるかい?

実は、その通りなんだ。
本当にどんなところにでもいるもんなんだよな。
その辺をふわふわと漂っていたりするんだよ。
君の周りにだって、たくさんいるんだよ。

ただ、見えないだけなのさ。
時々、意味もなくゾクッと感じることがあるだろ?
あれは、その霊が君の身体の中を偶然、通り抜けて同調してしまったときに感じるものなのさ。

ほとんどの場合は、害がないけれどね。
だから、辺りに霊がうようよしていても、取り立てて気にすることはない。
おかしな話かもしれないけれど、見える人間には、そういうもんなんだよ。

もっとも、僕もどんな霊でも見えるってわけじゃない。
さすがに、その辺を漂っているすべての浮遊霊までは見えないさ。
そこまで見えたら、僕は気が変になってしまうよ。

霊も、気を放っていてね。
強い霊気を放っているものに限って、見える程度だよ。
その程度の能力だ。
それから、強い霊気を放っていなくても、きっかけがあれば見えやすいね。

例えば……そうだな。
よく、木の木目や壁の染みが人の顔に見えることってないかな?
古い家に行って、天井を見上げてみる。
何の気なしに見ているのに、なぜか気になってしまう。
それも、ある一ヵ所が気になる。
そこにある木目が、どうも人の顔に見えて仕方ないんだ。
それも、苦痛に悶え苦しむ人の顔だ。
そんな経験、あるかい?

もしあったとしたら、君は霊感が強いと思う。
もちろん、その木目には、霊がいるよ。
もっとも、どんなに人の顔に見える木目や染みでも、偶然そうなったということはよくある話さ。
大事なのは、その木目や染みが、君は気になって仕方がないという場合だ。

それは、明らかに霊が君に呼びかけている証拠だよ。
もちろん、こういう話は科学的には証明されていないし、いろいろな意見がある。

どれが正しくて、どれが間違いかは結局のところ誰も言い当てられないものさ。
自分が見えれば、誰が何と言おうと、それが現実だ。
僕は少なくともそう思っているよ。

で、天井の木目や壁の染みに霊が潜んでいる話。
君は、興味を持ってくれたかな。
当然のことながら、この学校にもそういうものがあるんだよね。
偶然、人の顔に見えるんじゃなくて、本当に霊がいるために人の顔に見えてしまう染み。

君は、気づかなかったかい?
君、霊感が強そうなのにな。
もっと、ふだんから気を張っているといいよ。
そうすれば、君なら感じ取れると思うから。
うちの学校にある、例の染みの話だけど、結構あるんだよね。
何ヵ所も。

特に、旧校舎に多かったりするんだなあ。
床板に、奇妙な形で残っている木目。
壁に、押しつけられたようにくっきりと染みついた染み。
あれらの中には、かなりの霊が混じっているよ。
あまり邪悪なものは感じられないけれど。

でもね、一番はっきりと強く感じられるのは、実は新校舎にあるんだよ。
知ってるかな?
一階の東側にある女子トイレ。
あそこなんだ。

あのトイレの中に、薄汚れた黒っぽい染みがあるんだよ。
あれは、誰が見ても人の顔だって判るな。
何で、僕が女子トイレのことを知ってるかって?
僕は、別に変態じゃないよ。
女子トイレに一人でコソコソ忍び込んだりしないさ。

僕に霊感があるっていうのを知って、クラスの女子が相談に来たんだよ。
あのトイレの一番窓側の個室に入ると、なんだか寒気がするって。
その個室のドアの横に、その人の顔の形をした黒っぽい染みがあるんだ。
何か悪い霊がいるかもしれないから、調べてほしいって頼まれた。

もちろん、先生にそんなこと相談しても相手にしてくれないし、トイレを調べたいって話をしても許してくれるわけはない。
だから、結局は忍び込んだんだけれど。

だからって、一人でじゃないよ。
もちろん、何人もの女子が一緒についてきてくれたわけだし、放課後人気のないところを見計らって、サッとね。

変な話だと思うかもしれないけれど、彼女たちにしてみれば、それほど真剣で、せっぱつまった問題だったのさ。
霊気はね、近づくと何となく予兆があるものなんだ。

あ、この辺にいるぞってね。
強い霊気であれば、あるほど強く感じる。
それが、不思議なことにまったく感じられないのさ。

女子トイレの前に立っても、そんな気配は少しも感じられない。
それで、僕も今まで気づかなかったんだな。
だから、このトイレに付いている染みは、霊なんかじゃないと思った。
まして、悪い霊なんかじゃね。
ただ、隙間風か何かが吹いて、寒気がすると思ったのさ。

それをいうと、女子のみんなは少しほっとしたようだった。
だから、僕は女子トイレを調べる必要はないと思った。

でも、万が一ということもある。
不安そうな顔で目を伏せている女子もいたし。
君だったら、どうする?
1.女子トイレを調べる
2.女子トイレには入らない