学校であった怖い話
>二話目(細田友晴)
>B5

僕たちは迷ったすえ、生徒指導の比田先生に話をすることにした。

比田先生は、厳しいけれど、僕たち生徒の話を真剣に聞いてくれる女の先生だ。
君は、知らないだろうけどね。
僕は、トイレの染みから邪悪な霊気を感じるから、早く何とかしたほうがいいと、正直に話したんだ。
「何わけのわからないこと言ってるの。そんな馬鹿なこと言ってないで早く家に帰りなさい」

それが先生の答えだった。
思っていた通りの答えだったよ。
まあ、笑われないだけ、ましだったけれどね。
「……すいませんでした」

僕たちは、そういうしかなかった。
所詮、先生を当てにしたのが間違いだったんだ。
僕たちの手で何とかしなければならない。
「ちょっと待ちなさい」
職員室から立ち去ろうとする僕たちを、どういうわけか比田先生は呼び止めた。

なんだか、思い詰めたような顔をしていたよ。
逆に不思議だったのは僕たちのほうだ。
「ちょっといいかしら。こっちで待っててくれる?」

そういうと、比田先生は僕たちを生徒指導室に案内してくれた。
初めて入る場所だった。
僕は、まじめだからそういう場所には縁がなかったからね。
本当さ、笑わないでくれよ。
僕たちは、何が起こったのか、ちょっとだけ心配になった。

まさか、こんなことで親が呼び出されるとか、厳しく注意されるなんて思いたくなかった。
それでも、比田先生のあの深刻そうな表情は、何かただ事じゃないものをみんな感じていた。
僕は、数人の女子に囲まれて、様子を見守った。

みんな、今にも泣き出しそうな顔をしている。
きっと、比田先生が怖いんだ。
こんなとき、男である僕が元気づけてあげなければいけない。
それが、男の役目だろ?
何か楽しい話でもしようかと思ったとき……。

ドアが開いて、比田先生が入ってきたんだ。
手には、タオルを持っていた。
そのタオルで、何かを包んでいた。
それを机の上に置くと、ゴトッという音がしたから、かなり重いものがあのタオルの中に包まれているんだろう。

比田先生は、椅子に座ってからもそのタオルの上に手を置いたまま放そうとしなかった。
よほど大事なものが包まれているに違いない。
先生は、みんなの顔を見回すと、話しにくそうに一つの話をしてくれたんだ。
それは、今から二十年ほど前のことだったらしい。

その時から、あのトイレに染みはあったそうだ。

そのころも、学校にいじめはあってね。
西条陽子という生徒は、いじめっ子グループのリーダーだったんだ。
彼女たちは、いつも気の弱そうな子をトイレに連れ込んでは、生意気だの、話し方がなってないだの、いろいろと攻め寄ったんだ。

何度注意しても、その子の態度が改まらないと屁理屈をつけては、いじめたんだ。
いじめっ子なんて、理由はどうでもいいのさ。
ただ、気にくわない奴を、気晴らしにいじめるだけだからね。

そしてある日、西条は一人の女の子をトイレの壁の、あの染みのあるところに連れていって、顔を押しつけたのさ。
そして、こう言った。
1.この染みをなめな
2.この染みをきれいにするまで帰るな