学校であった怖い話
>二話目(細田友晴)
>G6

やっぱり好奇心には勝てないからね。
僕はこっそり、トイレをのぞき込んだ。

…………低い声が聞こえる。
「おまえが……おまえが悪いんだ……」
もちろん、芦村先生の声だよ。
先生は、窓際のトイレに向かって話してるようだった。
「殺す気なんてなかった。おまえが勝手に転んで、頭を打ったんじゃないか……もう勘弁してくれ」

聞き間違いなんかじゃない。
先生は、はっきりそう言ったんだ。
驚いて後ろに下がった拍子に、僕は壁にぶつかってしまった。
小さな音だったけど、先生は聞き逃さなかったよ。

振り向いた瞬間の、あの形相。
怖い先生だと思ってたけど、あんなに恐ろしい顔は、始めて見たよ。
「細田……聞いていたのか」
芦村先生は、僕の方に近づいてきた。

「あの染みは、おまえたちの先輩だ。何年も前に、俺がこの奥の壁に塗り込めた……」
何で、こんなことを僕にしゃべったと思う?
……うん、何を言っても、僕を殺せば他には漏れない……ってことだったんだよ。
先生の殺気が、僕に向かってきた。

あの染みの霊気なんか及びもつかないくらい陰湿な感じだった。
「……彼女は不良でな。俺が何回注意しても聞かなかった。あの時も……言ってもわからない彼女に腹を立てて殴ってしまった。あの子はよろめいて……頭を打って、死んでしまったんだ」

逃げればいい……って、思うだろ。
でも、僕は動けなかった。
恥ずかしい話だけど、腰を抜かしたんだな。

先生は、どんどん近づいてくる。
「おまえも、彼女の隣りに埋めてやろう……仲間が増えれば、満足するかもしれない」
太い手が、僕の首に伸びてきた。

それなのに、僕ときたら、てんで体が動かないのさ。
せめて、死んだら絶対、化けて出てやろうと覚悟を決めた時……。
先生の動きが、ピタッと止まった。
信じられなかったよ。

先生の腕に、黒髪が巻き付いていたんだ。
個室のドアを押し開けて、長く長く伸びた髪がね。
腕だけじゃない。

脚にも胴にも、首にも巻き付いている。
先生がもがいても、びくともしないんだ。
そして、黒髪は先生を引き寄せ始めた。

「や……やめてくれっ……助けて……」
首を絞められているせいか、その声はとても小さかった。
僕が助けなきゃ、きっと誰にも気づかれないだろう。
僕は……。
1.先生を見捨てた
2.先生を助けた