学校であった怖い話
>二話目(岩下明美)
>A10

そう。
あんたは、答えた。
だって、優しい人だもの。
当然よね。
そして、ゆっくりと歩き始めたの。

彼女の体は冷たかったけれど、とても軽かったわ。
まるで、誰もしょってないと思えるほど、軽かった。
それでも、彼女の細い手が、首に巻きついてくる感触だけはわかったわ。
一人ではないということが、ちょっとだけ勇気を与えてくれたわ。

でも、廊下の端は近づいてこない。
少しも、前に進んでいる気がしない。
しかも、後ろで変な音が聞こえ始めたの。
そういえば、廊下の反対側にも、黒い固まりがあったのよね。
あれ、何だったか結局はわからずじまい。

それが、音を立てているのかもしれない。
振り向こうか、どうしようか……あんたは迷ったわ。
その時、彼女の息が耳元にかかったの。
「……振り向かないで。振り向くとだめ。振り向いたら、大変なことが起きるから……。
絶対に振り向いてはだめよ」

冷たい身体とは裏腹に、生暖かい息だったわ。
耳元をくすぐるような、嫌な息。
その息から逃げるようにして、あんたは目を落とした。

そして、ふと彼女の手を見たの。
驚いて振り落としそうになったわ。
彼女の手は、かさかさに乾いて、まるでミイラみたいだった。
骨に、薄皮が一枚、申しわけなくへばり付いているような細い手。
指は、骨そのものに思えたわ。

「どうしたの?
体が震えているわ。寒いの?
寒かったら、私が暖めてあげるわ」
耳元でささやく声は、とても優しかった。
それでも、何だか年老いた老婆のようにしゃがれた声にも思えたの。

時折、頬をなでる彼女の髪は、真っ白だった。
確か、抱き起こしたときは長くしっとりと濡れた黒髪だったはずなのに、今見えるのは、暗闇にひときわ映える白い髪。
いったい、自分が背負っているのは誰なんだろう?

人間じゃないのかもしれない。
振り向けば、その答えがわかるわ。
どうする?
あんた、振り向いてみる?
1.振り向く
2.振り向かない