学校であった怖い話
>二話目(福沢玲子)
>A2

そう。
すごいね。
水道の水を飲めるなんて、デリカシーがないんだね。
見た目と同じで。
うそうそ、冗談だってば。

私は、飲めないの。
飲めないっていうか、水道の水をコップに注ぐでしょ。
するとね、じーっとコップを見つめちゃうんだ。
そういうこと、ない?
あれ、私のくせ。

でも、何か変なものが入っていたら嫌でしょ?
よく、断水とかあった後、赤っぽいサビついた水が出るじゃない?
あれが、血に見えちゃうの。
ひょっとしたら、この水の中に血が混じってるんじゃないかなあ、なんて。
そんなこと、あるわけないんだけどね。

けど、私は水道の水を信用してないんだよ。
もし、蛇口の中にゴキブリとか入り込んで、生活してたらどうする?
それに気づかないで、平気で水を飲んでたりして。
時々、水の表面に油が浮いてたりしてさ。
気にしないで飲んじゃうの。

それで、ある日思い切り蛇口をひねったら、水と一緒にゴキブリがドバーッて出てきて、コップの中でパチャパチャ泳いだりしたら、どうする?
嫌でしょ。
私、いや。
すごく、いや。

私ね、よく家族でキャンプに行くんだよ。
お父さんが、キャンプが好きなの。
それでね、ああいうところって、怖いでしょ。
明かりがあんまりないし。
トイレとか汚いし。

それで、ふくろうとか虫とか鳴いてるし。
風が吹くと、木がザワザワと気味の悪い音を鳴らすし。
とにかく、怖いの。
それで、お父さんが怖い話をするんだよね。
湖の側って、必ずっていっていいほどキャンプ場があるのよ。
大きな湖ならば、まず絶対ね。

それでね、そういうキャンプ場って水はどうしてると思う?
今でこそ、ちゃんと貯水池から水道の水を引いているけれど、昔はね、湖の水をそのまま使ってたんだって。
もちろん、ちゃんとパイプから引いて、ろ過して精製したんだけどね。

でもね、やだよね、湖の水だよ。
あの緑色に濁った水だもんね。
ボートとか浮いてたり、みんなが泳いでる水だよ。
誰がオシッコしてるかわからないじゃん。
そんな水を飲んでたんだよ。

でもさあ、キャンプ場っていっても洗い場には蛇口がついてるじゃない。
だから、見た目は普通の水道と変わらないのよ。
それなのに出てくるのは湖の水よ。
嫌よね、そんなの。

それでね、よく蛇口から髪の毛が出てくることがあるんだって。
髪の毛だよ、人間の髪の毛。
手とか洗ってるじゃない。
すると、何か絡みつくなって思ってふと目をやると、手にいっぱい髪の毛が絡みついてるの。
ぞぞぞってね。

洗っても洗っても、まとわりついてなかなか落ちないんだよ。
気持ち悪いよね。
本当なんだって。
何でもね、湖によっては自殺の名所になっていてさ。
よく人が死んだらしいの。

湖だと藻が絡みつくでしょ。
だから、死体が上がりにくいんだってさ。
それで、時間が経つと、だんだん腐っていって、魚の餌になったりするの。
死体は溶けても、髪の毛は残るのよね。
それで、パイプを通って、髪の毛だけ流れてくるんだって。

ろ過しても、髪の毛は細いでしょ。
時々、通り抜けてくるんだってさ。
ほんの十数年前までは、そうだったらしいよ。
今でも、どこかの湖に行けばあるんじゃない?
湖の水を引いてるとこ。
やだよね。

その話を聞いたら、私もう泣いちゃって。
キャンプ場で水が飲めなくなっちゃって大騒ぎだったんだよ。
お父さんは、冗談だよって笑ったけれど、あれは冗談なんかじゃないよ。

本当の話だよ。
嫌でしょ、水道の水。
どう、坂上君。
あなた、今の話を聞いても水道の水が飲める?
1.飲める
2.飲めない