学校であった怖い話
>三話目(風間望)
>AQ4

風間さんは、不服そうにこちらを見ている。
と思ったら、黙ってポケットから一枚の紙を取りだし、机に置いた。
「この紙を使って、こっくりさんを呼ぶよ。
坂上君、君のことを特別に占ってやろう。
そして、その占いが終わった時、君にこっくりさんを乗り移らせる」

風間さんはそう言うと、手垢がついて濃い茶色になった十円玉を取り出し、にやりと笑った。
この人は……。
いったい、どういう人なんだろう。
本物のこっくりさんを呼び出せると言ったり呪いをかけてやるなんて言ったり……。

「さあ坂上君、十円玉に指を置きたまえ」
風間さんの言葉が、何かの宣告のように聞こえた。
例えるなら、そう……。
まるで、死刑の宣告のように。

「坂上君、指を置きたまえ」
風間さんが、絶対の命令を下す者の様に繰り返した。
僕は何だか泣きたいような変な気分になって辺りを見回した。
僕に呪いをかけるなんて。
こんなこと、みんなが黙って見ているはずはない。

「坂上君、早く指を置きたまえ」
風間さんが僕の腕をつかんだ。
「やめてくれ!!」
僕は、思い切り腕を振り払った。
すると……。
何かが、カサリと落ちる音がした。

あっ……。
こっくりさんを呼ぶ為の紙が、床に落ちたのだ。
「ああっ!」
風間さんが、叫び声を上げた。
「儀式の紙を落とすなんて!
呪われるぞ!
坂上、おまえは、呪われるぞ……!!」

部室内の全員が、息をつめて僕を見た。
「……だがな、坂上君」
風間さんは、僕を挑むように見つめゆっくりとつぶやいた。
「一つだけ助かる方法がある。
それは……。
このお守りを身につけておくことだ。
特別に、これを千円で売ってやる」

そう言う風間さんの手には、五十円くらいでよく売っているような、消しゴムが握られていた。
「……あのう」
僕は、何だかおかしいと思いはじめた。
「ん、何だい?
これを買うのかい?」
風間さんの表情は、さっきとうって変わってにやにやしている。

……うさんくさいぞ。
「あのう。……それって、ただの消しゴムじゃないんですか?」
僕が聞くと、風間さんはおおげさな身振りで一気にこう言った。
「何てことを言うんだ君この消しゴムは僕がある霊験あらたかな山に流れる天然水で清めた本物の効果のあるお守りだぞ」

僕が圧倒されていると、彼はさらにこうたたみかけた。
「この消しゴムを清めた山の水は、何人もの修験者が修行で打たれている滝の水なんだ。
その水で一晩清めれば、ただの消しゴムにも霊的な力が宿り、お守りになるんだよ。

清めてお守りにする為の物は、何を選んでもいいんだ。
普段身につけられるものでもいいし、キーホルダーなどでもいい。
あの滝の水で清めるということが、大事なんだよ。
消しゴムを選んだのは、学校に持ってきやすいからさ。
君、その滝のある場所まで行くのは大変なんだよ。

千円で譲るなんて本来なら考えられないことなのに。
これは、今回七不思議の怪談をするというから、何か悪いことがあってはいけないと思って一つ持って来たものなんだ。

それを、君の為に特別にゆずってやると言っているんだよ」
1.信じる
2.信じない