学校であった怖い話
>三話目(岩下明美)
>A3

……そう。
それはいいことだわ。
どんな絵を描くのかしら?
今度、見せてもらいたいわね。

約束よ。
絶対に、見せてちょうだいね。
絵は、その人の心や性格を映しだすっていうし。
絵を見れば、私はその人がどんなことを思っているかわかるのよ。

だから、悲しい絵を見ると、自然に涙がこぼれてくるの。
絵って人の魂を吸い取るっていうでしょ?
そんな話、聞いたことない?

絵はね、生きているのよ。
描いている絵に、全身全霊を打ち込めば、必ずその絵には魂が入り込む。
……それがどんな絵であってもね。
この世にもね、恨みの絵って、たくさん残っているのよ。
美術館などには、めったに出展されないけど。

絵を描く人って、生活が豊かじゃないことって多いわよね。
芸術家肌っていうの?
仕事として描いていれば別だけれど、自分の好きな絵を好きなように描いている人たちは、食べていけない場合って多いそうよ。
もっとも、それが自分の選んだ道だし、好きでやっているわけだから誰も文句は言えないけれど。

それでね、中にはその不満が恨みに変わって、絵にその思いをぶつける人っているのよ。
その人が死んでからも、怨念が宿った絵は永遠に残る。

どこかの廃屋の屋根裏のアトリエで、誰にも認められなかった絵描きの怨念が、来る人もいないのに、当てもなくただじっと待っている。
うふふ……、そういうことを想像すると、楽しいわ。

私がこれから話すのは、一枚の絵の話……。
あなた、絵が好きなのに、どうして美術部に入らなかったの?
美術部に入っていたら、たくさんの素敵な絵と出会えたでしょうに……。
うちの学校はね、けっこう美術部は有名なのよ。

美術の増村先生は、有名なコンクールで何度も入選しているし、個展もよく開くの。
美術部の卒業生も、もう何人もプロで食べているって話よ。
最近、よく話題になる小松沢孝明っていうイラストレーター、名前くらい聞いたことあるでしょ?
あの人も、うちの卒業生だそうよ。

そういう人たちが、高校時代に描いた油絵や水彩画、デッサン、そういった思い出の絵が、たくさんこの学校にはしまわれてあるの。
そういう絵には、希望や夢がたくさん詰まっているんでしょうね。

でもね、そういう絵ばかりじゃないのよ。
さっき、私が話したような絵。
そう、人の怨念が込められているような絵。
そういうのもね、うちの学校にあるのよ。

美術室には、美術部の人たちの描いた絵が何枚も飾られているのは知っているでしょ?
今飾られているのは、ほとんど現役の人たちの作品なんだけれど、中には数々の賞に輝いた先輩たちの作品もあるのよ。
でも、それはほんの一部。
数え切れないほどの絵の中から選ばれた、ほんの一握りの作品。

選ばれなかった作品はどうなるか知ってる?
ほとんどの作品は、部員たちが自分の家に持って帰ってしまうんだけれど、そうでないものもあるの。
作者にまで忘れられたような作品たち。
そういうものは、美術部の部室の片隅に、ほこりをかぶって山積みにされているの。

かわいそうな話だわ。
絵だって生きているのに。
その中にね、作者が愛していながらも、そういう悲惨な運命をたどらねばならなかった絵が一枚だけあるのよ。
どうしてなのかって?
うふふ……。

その話をする前に、これからよければ、みんなで美術部の部室に行ってみませんこと?
1.行ってみる
2.行かない
3.自分はここに残る