学校であった怖い話
>三話目(福沢玲子)
>C6

私も、そう思う。
どう考えたって普通じゃないもの。
じゃあね、あの桜にまつわる話をしてあげるわ。

……もう何十年も昔の話だけれどね。
戦争中に、あの桜の木の辺りが死体置き場になっていたんですって。
穴を掘って、そこに死体を投げ捨ててたっていう噂だから、怖い話よね。

しかもさ、死体だけじゃなくて、まだ息があっても助かる見込みのない人は、容赦なく投げ捨てていたんだって。

だからね、まさに文字通り地獄絵図だったのよね。
次から次へと死体を捨てていくでしょ。
穴はいっぱいになるまで埋められないから、腐乱臭がものすごいの。
遠くから見ているだけでも、風に乗ってその臭いが流れてきたそうよ。

そして、生きている人たちの悲しくも恨みに満ちた怨念の呻き声も一緒に流れてきた。
「痛いよ」とか「苦しいよ」だけじゃなくて、もう言葉にならないような恨めしそうな声が、途切れることなくその穴から聞こえ続けていたのよ。
それこそ、二十四時間、絶え間なくね。

あの桜は、その光景をずーっと見ていた。
見たくもない光景だったと思うわ……。
きっと、目を背けたくても、意識を断ち切りたくてもだめだったんだと思うよ。

それって、拷問だよね。
千年も生きていて、きっと今までで一番恐ろしい光景だったんじゃないかな。

そんな光景を見続けてごらんよ。
人間だったら、変になって当然だよ。
まして、感情豊かな植物なんだよ。
どんな気持ちだったかを思うと、私は同情しちゃうよ。

しかも、その人間たちを養分にして生きてきたわけでしょ。
戦争や人間を恨みながら死んでいった人間たちは、ぐずぐずと腐り果てて土と同化する。
そのエキスを吸い取りながら、生きてきたんだよ。
あそこに捨てられた人間たちは、きっと肉体だけじゃなくて、その魂までも土に帰したはずだよ。

だから、何百という人間の怨念を、あの桜は吸い取っているんだよ。
今度、よく見てみるといいよ。
じっと見ていると、あの大木の幹にね、苦しみ悶える人の顔が浮かんでくるからさ。

木の節がね、そういう風に見えてしまうの。
あれは、偶然なんかじゃないわ。
間違いなく、おびただしい数の死者の積もり積もった怨念よ。

その怨念が、ああして幹に一つ、また一つと刻み込まれていくのよ。
うそだと思うなら、これから確かめに行こうか?
私には、見えるもの。
あなたにだって、絶対に見えるはずよ。

ね?
行かない?
1.行く
2.行かない