学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>A3

ふっふ……そうか、知りたいのか。
お前も好きだなあ。
残酷な話は大好きってわけか。
それとも、他人の不幸は大好きって口か?
まあ、いいや。
それじゃあ、話してやる。

朝は四時に起きて薪割りと朝練。
そして、食事の支度だ。
食事がすむと、ウエイト・トレーニングと山道のランニング。
きついぞ、これは。
そして、昼食の支度。

食事は全部一年生が作るからな。
それでまずいとぶん殴られるのさ。
さらに、腕立て伏せ三百回。
飯がまずいだけでだぜ。
拷問だよな、これは。

でも、こんなの序の口だ。
この程度だったら、別に地獄の合宿と呼ばれるほどのことじゃない。
問題は午後だ。
午後は、一年生が一人ずつ、先輩全員と練習試合を行うんだ。
一人、三ラウンドずつ。
先輩は十人程度だけれど、全国大会でも上位に食い込む連中だ。
その連中と合計三十ラウンドも戦わされるんだぜ。

拷問以外の何ものでもない。
しごきとは名ばかりで、はっきりいっていじめさ。
まあ、ほとんどの奴が、最後まで持たないね。
途中で意識不明になっちまうのがおちだ。

意識不明になっても、水をぶっかけられて、無理やり立たされる。
それで試合を続けさせられるんだ。
生きているサンドバッグ。
砂の代わりに、肉と血が詰まった皮袋だよ。

一日で、一年生の顔なんか、パンパンに膨れ上がって、化け物のオンパレードだ。
そんな連中が山奥にうようよしてるんだからな。
まかり間違って山登りにきた奴が目撃でもしようもんなら……。
ああいうのが、実はお化けの正体だったりしてな。
あっははは……。

……ま、話を続けようか。
それでな、そんな特訓というか拷問というか、いじめを続けるだろ?
三日もたてば、あっという間にほとんどの奴が脱走してしまうのさ。
夜中にこっそりとな。
それで、最終的には五人くらいになっちまうのさ。

えーと、あれは何年くらい前だったかな。
確か、十五年くらい前だったと思う。
その年も、例年と同じように地獄の合宿は行われた。
その時、二十三人の一年生が合宿に参加した。
みんな、合宿の噂は聞いてるからな。

びくびくする奴がほとんどだったが、中には落ち着いた奴もいてな。
自分は大丈夫だ、とか自信を持ってるのさ。
ま、そういう奴に限ってけっこう真っ先に逃げ出したりするんだけどな。

で、その年の一年生に赤坂陽介ってのがいてな。
どっちかっていうと、体は丈夫なほうとはいえなかった。
けども、ボクシングが大好きでな。
強いボクサーにあこがれてたのさ。
見た目はいじめられっ子タイプなんだけどな、赤坂は。

正直、先輩たちは奴が一番最初に退部するとふんでいた。
ところが、意外と根性あったのさ。
何だかんだいって、合宿まで持ったんだからな。
でも、合宿が終わるころには誰もがやめていると信じていた。
そして、そのつもりで、赤坂にターゲットを絞っていたのさ。
しごきのターゲットをな。

はっきりいって、しごきとか特訓とかいっても、先輩にとっては、うさばらしとかストレス解消とかあったと思う。
伝統を重んじるとか、そうやって精神力を養うとか、表向きではいいことをいってたけどな。

実質上は、そんなことない。
やっぱり、ただのいじめだったのさ。
赤坂に対する特訓は、ほかの一年生が見てもひどいものだった。

顔が真っ赤に腫れ上がっても、血を吐いてもやめなかったのさ。
それでいて、倒れると根性がないだの、練習が足りないだのどなりつけるんだ。
もちろん、ほかの一年にだって十分すぎるほどのしごきはあったぜ。
それで、逃げ出す奴もいた。

ある日、一年生の数人が集まって逃げ出す相談をしていたんだ。
それで、赤坂も誘うことにした。
赤坂の奴、何ていったと思う?
1.一緒に逃げよう
2.僕は最後まで頑張る
3.そんなこというと先輩に言いつけてやる