学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>K4

そう、なんと赤坂は、そんなことをいうと先輩にいいつける、なんていいだしたのさ。
赤坂は、逃げる気なんてまったくなかったんだ。
だが、他の一年に逃げられたら、奴だけが集中的にしごきを受けてしまうことになるだろう?
それを阻止しようとしたんだな。

赤坂は、こういったんだ。
「ここまで頑張ったんだ。最後まで乗りきろうよ。もし本当に逃げるつもりなら、僕は先輩にいいつけてでも阻止するよ。でも、安心してくれ。脱走をやめるなら、絶対いいつけたりしないから……」

でもな、そんなことをいわれたら、脱走をもちかけた奴らは不安になっちまうよな。
「わかった。脱走はやめるよ」
なんて返事をする一方で、みんなはこう思ったんだ。
もし、本当に脱走をやめたとしても……。

赤坂は、きっとこのことを先輩に報告する。
そうすれば、今度は自分たちがしごきを受ける。
今でさえつらいのに、これ以上やられたら、本当に死んでしまう。
みんな、ガタガタ震え出したぜ。
そして、赤坂に詰め寄った。

「おい。お前、このことは内緒にしておけよ」
「……ああ、いわないよ」
けどな、みんな赤坂の言葉を信じちゃあいなかった。
信じようと思っても、心配で心配で仕方なかったのさ。
それで、呼び出したのさ。

夕飯の支度のとき、赤坂をリンチにあわせたのさ。
ひどい話だよな。
みんなも、うっぷんがたまっていたからな。
最初は、ちょっと小突く程度で考えていた。
でも、それじゃすまなかった。
どんどんエスカレートしていったのさ。

赤坂ってのは、もともといじめられやすい体質だったのかもな。
みんな、何かに取りつかれたように赤坂を殴り、そして蹴った。
「お前のグローブを借りるぜ」
リーダー格の奴は、畑中 亨っていってな。
赤坂のグローブを取ると、本物のサンドバッグのように赤坂を殴りつけたのさ。

「や、やめてくれよ……僕が何をしたんだよ」
「へっ。何もしてねえから、今のうちにしておくのさ。放っておけば、お前は絶対にチクるからよ。いいか、俺たちが脱走しようとしたこと、絶対に先輩にチクるんじゃねえぞ」
そういって、何度も何度も赤坂のことを殴りつけたのさ。

「いいな! 絶対にチクんなよ!」
「……………………」
それ以上、赤坂は答えなかった。
「おい、亨。もう、よせよ。気を失ってんぜ」
一人が止めなければ、畑中はもっと赤坂のことを殴っていたろうな。

グローブには血がべっとりとついていた。
もともとグローブって赤いだろ?
血がつくとさ、使い古しのグローブが、ピカピカ光って新品のように見えるんだよな。

「ほら、返してやるよ」
ぐったりと倒れた赤坂の顔に、たたきつけるようにしてグローブを投げ捨てたのさ。
そして、みんなは夕飯の支度に戻っていった。
一人、赤坂を残してな。

「おい! 赤坂はどうした」
食事時になっても赤坂はやってこなかった。
もっとも、一年生の中には気持ち悪くて食事もできないやつがいて当たり前だったけどな。
だから、先輩の言葉も、うまくごまかせるわけさ。

「赤坂は、今気分が悪いといって寝ております!」
先輩も、それ以上は追及しなかった。
食事を片付けたあと、畑中たちは急いで、赤坂を殴った場所にいったのさ。

赤坂は、まだそこにいたよ。
ぐったりと倒れたままの姿でね。
「おい、赤坂! いい加減に起きろよ」
畑中は、赤坂の腹に軽いケリを入れた。
けれど、変なんだ。
まるで柔らかいゴムを蹴飛ばしているようで、反応がないのさ。

生きている人間の反応がな。
「……おい、亨! こいつ、死んでるよ!」
赤坂を助け起こそうとした奴が、思わず叫んだ。
「……うそだろ?」
畑中は信じなかったさ。
あれだけのしごきに耐えた奴が、ちょっと小突いたくらいで死ぬなんて思わなかったからな。

でも、死んでいた。
どんなに呼ぼうが、どんなに揺すろうが、ぴくりとも反応しなかった。
息をしていなかったのさ。
「……どうする、亨? 俺たち、やべえよ」
一緒に赤坂を殴った連中は今にも死にそうな声を出した。

そりゃあ、そうだよな。
人を殺しちまったんだ。
それも、よってたかって……。
それで、どうしたと思う?
1.とにかく死体を埋めることにした
2.先輩に報告した
3.ふとんに運んでいって寝かせた