学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>A4
やっぱり赤坂も人の子だった。
さすがにあのしごきには、いいかげんうんざりしていたらしい。
しばらく黙ってみんなの話を聞いていたが、意を決したように目を伏せると、とうとう一緒に逃げるという提案に同意したんだ。
そりゃそうだよな。
ボクシング部のしごきは本当に尋常じゃなかったからな。
しかし、奴はすげえぜ。
どうせ脱走するなら、先輩たちに復讐してからにしようなんていいだしたんだよ。
奴の案はこうだ。
夕食にしびれ薬を混ぜ、連中が身動き取れなくなったところを縛りあげる。
そして今までの仕返しに、奴らをサンドバッグ代わりにしてボコボコにしてトンズラする……。
みんなはびっくりして赤坂を見た。
しかし、奴の目は少しの迷いも戸惑いも見せていなかったんだ。
日頃おとなしそうにしている奴に限って、こういう時は怖いよな。
当然みんなは赤坂の提案に反対した。
逃げ出すだけでも後ろめたいのに、そんな恐ろしいことにはだれも手を出したくないと思っていたんだな。
でも、赤坂は違った。
そんなバカげたアイデアを本気で実行しようと、かたくなに我を通し続けたんだ。
そしてついに、みんなが協力しないなら脱走のことを先輩たちにバラすといいだした。
そうなっては元も子もない。
みんなは、しぶしぶ赤坂の提案に同意したんだ。
しかし、しばらくして冷静になるとみんなやはり不安に駆られだしたんだ。
本当にうまくいくんだろうか。
うまくいったとしても、その後いったいどうなってしまうんだろう。
赤坂の案は、どう考えても頭のいい選択とは思えなかった。
そこでみんなは、赤坂の口を封じることにしたんだ。
どうやったかって?
しびれ薬を手に夕食の支度に現れた赤坂をリンチにあわせたのさ。
「おまえのグローブを借りるぜ」
リーダー格の奴は、畑中 亨っていってな。
赤坂のグローブを取ると、本物のサンドバッグのように、赤坂を殴りつけたんだ。
「な、何でだよ……一緒に逃げるっていったじゃないか」
突然のことに、赤坂はどうしていいのかわからなかった。
「いいか、俺達は脱走する。だが、先輩をボコボコにするわけにはいかねえんだよ。いいな。それから、このことは絶対にいうなよ。もしいったら、こんなリンチくらいじゃ済まさねえぞ!!」
畑中はそういって、何度も何度も赤坂のことを殴りつけたのさ。
畑中だけじゃない、脱走しようと話をもちかけた一年の奴ら全員で赤坂に暴力をふるったんだよ。
みんな、うっぷんがたまっていたのかもな。
「いいな! 絶対にチクんなよ!」
「……………………」
それ以上、赤坂は答えなかった。
「おい、亨。もう、よせよ。気を失ってんぜ」
一人が止めなければ、畑中はもっと赤坂のことを殴っていたろうな。
グローブには血がべっとりとついていた。
もともとグローブって赤いだろ?
血がつくとさ、使い古しのグローブが、ピカピカ光って新品のように見えるんだよな。
「ほら、返してやるよ」
ぐったりと倒れた赤坂の顔に、たたきつけるようにしてグローブを投げ捨てたのさ。
そして、みんなは夕飯の支度に戻っていった。
一人、赤坂を残してな。
「おい! 赤坂はどうした」
食事時になっても赤坂はやってこなかった。
もっとも、一年生の中には気持ち悪くて食事もできないやつがいて当たり前だったけどな。
だから、先輩の言葉も、うまくごまかせるわけさ。
「赤坂は、今気分が悪いといって寝ております!」
先輩も、それ以上は追及しなかった。
食事を片付けたあと、畑中たちは急いで、赤坂を殴った場所にいったのさ。
赤坂は、まだそこにいたよ。
ぐったりと倒れたままの姿でね。
「おい、赤坂! いい加減に起きろよ」
畑中は、赤坂の腹に軽いケリを入れた。
けれど、変なんだ。
まるで柔らかいゴムを蹴飛ばしているようで、反応がないのさ。
生きている人間の反応がな。
「……おい、亨! こいつ、死んでるよ!」
赤坂を助け起こそうとした奴が、思わず叫んだ。
「……うそだろ?」
畑中は信じなかったさ。
あれだけのしごきに耐えた奴が、ちょっと小突いたくらいで死ぬなんて思わなかったからな。
でも、死んでいた。
どんなに呼ぼうが、どんなに揺すろうが、ぴくりとも反応しなかった。
息をしていなかったのさ。
「……どうする、亨? 俺たち、やべえよ」
一緒に赤坂を殴った連中は今にも死にそうな声を出した。
そりゃあ、そうだよな。
人を殺しちまったんだ。
それも、よってたかって……。
それで、どうしたと思う?
1.とにかく死体を埋めることにした
2.先輩に報告した
3.ふとんに運んでいって寝かせた