学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>S9

そう思いますか。
でもね、彼にそういわれたらきっと断れなかったと思いますよ。
僕は映画が好きですから、何とも思いませんでしたけどね。

きっと、そんなあいまいな返事をしていたら、引きずってでも映画を見せに連れて行かれそうな気迫が彼にはありましたよ。
彼は、よっぽど自分の映画に自信があったんでしょうね。

映画研究同好会は、部室がなかったので、放課後の視聴覚室を使っていたんです。
まだ、同好会でしたから。
彼は、慣れた手つきで編集されたばかりのフィルムをセッティングしました。

「さあ、この映画の売りの部分だけ見せるけど、十分楽しめるよ」
僕は、自主制作の映画なんて、初めて見ますからちょっと緊張しました。
まずは、ストーリーのあらすじを聞きました。
全部見るわけじゃありませんからね。

「そして、これがその柩が日本に到着して、初めてミイラが目覚めるところさ。そして、ミイラが、暗闇の中を王女の生まれ変わりを捜してさまよい歩くシーンだ」
僕は、びっくりしました。
ええ、彼のカメラワークの巧みさから、メイクに至ってまでもこんなにうまいなんて……。

そりゃ、普通の一般公開されている映画と比べてはいけませんよ。
特に、ミイラのメイクは彼が一番こだわった部分ですからね。
包帯が、顔の部分だけちょっとはがれていて、そこから覗いたバサバサの皮膚や、その色までリアルに表現されている。

「すごいね。ちょっと感動しちゃったよ」
僕はそういって彼を見ました。

「そうだろう!! 僕が頑張った甲斐があったよ!!」
そういう彼は、何かいつもと違うような気がしました。
彼は、たて続けに変なことを話し出したんです。

「当たり前さ、生身の人間がベースなんだからね」
「……!?」
僕はちょっと彼の言っている意味が分かりませんでした。

そして、スクリーンを見るとミイラの顔のアップが映ったんです。
ミイラの顔をよく見ると、焦ってるような感じを受けました。
なにか、口をパクパクさせていたんです。

なにか言っている?
BGMを入れているので生音は聞こえない。
僕は、ちょっと気になり口まねをしてみた。

「た……、す……、け……、て……」
えっ!?
助けてだって!?
この話は、ミイラが助けを呼ぶ話じゃない。
彼が口を挟んだ。

「苦労したよ。やっぱり突き詰めたら人間さ。生身の人間の顔に硫酸をかけて、ドロドロにするだろ?
そしたら、絵の具を混ぜ合わせてその顔に塗る。それをドライヤーでガビガビにさせながら……」
僕は彼の説明を聞きながら呆然とした。

そういえば、さっきのミイラは演技ではなく、助けを求めてさまよっていたのかも!?
誰かに似ていたような気もする……。

「時田君、悪いけどこれは映画じゃない!!犯罪だ!!」
僕は思わず叫んでいた。
時田君の目が、鋭く僕をにらんだ。
その時、坂上君はどうする!?
1.犯罪なんだと自覚させる
2.逃げる