学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>A4

じゃあ、話すよ。
あのトイレは、こっくりさんの文字盤が書いてあったり自殺者も出たということもあって、使う人もほとんどいなかったんだ。
いやね、僕の友達でその被害にあったやつがいるんだよ。
あのトイレを使ったやつがいてさ。

その友達の名前は、津田圭一っていった。
津田君はね、なにもわざとあのトイレを使ったわけじゃないんだ。
一応、あのトイレにまつわる話は知っていたしね。

ある日のこと、体育の授業が終わって、突然トイレに行きたくなってさ。
もらすよりもいいから、仕方なく行ったんだよ。

ひんやりしたトイレに、壁一面例の文字盤が書いてある。
うわさは聞いていたが、まじめに見るのは今回が初めてだ。
思ったより、はっきりと文字盤の文字が浮き出ている。
彼はできるだけ、それを見ないようにしたんだけどやっぱり気になる。

取りあえず、素早く用を済ませて外に出たんだ。
後ろを振り返ってトイレを見るともやのようなものが渦巻いているのが、見えたような気がした。
彼は、一瞬背筋を震わせた。
今回は特になにもなかったけれど、やっぱり二度とあそこには近づかないほうがいいかもしれないと思った。

それから何日かたったある日。
あれは、昼休みのときだった。
僕が弁当を食べて屋上に行ったとき、端のほうで津田君が一人で弁当を食べているんだよ。
津田君は、食が細くてね。
いつも、まずそうに食べるんだよ。
僕なんか、食事のときが一番幸せなんだけどね。

津田君は、正反対だった。
仕方なく、無理して食べているようだったよ。
ところが、どうだい。
その時は、人が違ったようにモリモリ食べているじゃないか。
ものすごい勢いで、弁当箱の中のものをかっこんでいるのさ。
僕は、手を振って近づいていったよ。

「おーい、津田君!」
津田君は、僕にチラッと目を止めただけで、一時も箸を持つ手を休めない。
よっぽど、うまいものを食ってるのか。
それなら僕も一つもらおうかな、なんて思いながら近づくと……。
僕は、今さっき食べたものを戻しそうになってしまったよ。

彼が食べていたのは、子ネズミだったんだ。
弁当箱には、山盛りの子ネズミが入っていてね。
まだ、赤裸の毛が生えていないやつだ。
僕が側にいるのがわかっているのに、彼は一心不乱になって食べていたよ。

それで、弁当箱いっぱいの子ネズミを平らげると、とても満足そうに口を拭い、ため息をついたんだ。
そして、僕を見た。
「どうしたんだい、細田君」
僕が立ちすくんでいるのが不思議なように、そんなことをいうんだ。

そして、弁当箱のふたを閉めると、僕の横を通りすぎ、下へ下りていってしまった。
僕はしばらくの間動けなかったよ。
今でも、彼の僕を見る目が忘れられない。
彼の瞳は、猫の目のように縦に切れ込んでいたように見えたんだ。
僕は、それから津田君には近づかないことにした。

ある日の放課後、僕は彼がよろよろと体育館の裏に行こうとしているのを目撃した。
坂上君だったら、彼の後についていってみる?
1.ついていく
2.ついていかない