学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>A5

気になった僕は、よせばいいのに彼の後をついていった。
ひょっとしたら、彼が変わってしまった原因がわかるかもしれない。
今は、ただの気持ち悪いやつだけど、曲がりなりにも友達だったんだから……。
僕はそう思った。
彼の後についてゆくと、そこは例のトイレだった。

僕は、木陰からそっと彼の様子を見守ったのさ。
そして、彼はなにかしゃがんでいるようだった。
彼は一生懸命トイレの文字盤を見ている。
すると、おもむろにその文字盤をぺろぺろと舐めだしたんだ。

しばらく舐めていたかと思うと、今度は急に立ち上がりぴょんぴょんと飛び跳ねた。
その時は、まだ怖いというよりも不思議な光景だったね。
夕暮れで、薄暗いトイレの蛍光灯に大きな蛾が何匹か集まってきている。
彼は、その蛾を器用に口でとらえ食べ始めたんだよ。

何匹かいたはずの蛾を、みんな彼は食べてしまったようだ。
僕は、その光景をずっと見ていて気持ち悪くなってしまったよ。
当たり前といえば、当たり前なんだけどね。

「うげーーーー!」
僕は、思いっきりその場にもどしてしまった。
彼に音が聞こえたかもしれないと思い、そっとトイレを見た。
すると、もう彼はトイレにはいなかった。

嫌な予感がして後ろを振り向くと彼は猫のような目を光らせて僕を見ていた。
「……見たな」
その声色は彼のものではなかった。
そして、突然のことで身動きが取れない僕に、彼は飛びかかった。

彼は僕を押し倒し、胸の上に馬乗りになるとまだ、さっき食べた蛾の鱗粉がついた口で僕の顔を舐め上げた。
僕は、とっさにいつも身につけているお守りを、彼の額に押し当てたんだよ。
「ぎゃぎゃーー!」

彼は、ものすごい叫びをあげると、ばたりと倒れた。
彼が倒れると、そこから白いもやのようなものがトイレの壁に向かっていくのが見えた。
そして、トイレの文字盤に吸い込まれるように消えたんだ。
僕は見た。
あれは、確かに白い狐の形をしていたよ。

「津田君!!」
僕は、倒れている津田君を揺り起こした。
「細田君? どうしたの? 僕は何でここにいるの?」
津田君は、しばらく考えているようだった。
そして、僕にこう言ったんだ。

「……僕ね、この数日間の記憶がないんだよ。
どうしちゃったのかなあ。あの体育館の脇のトイレに行って、そこから覚えていないんだ。そして気がついたらここにいたんだよ。
変だよな?」

僕は、その言葉に促されるように頷いてしまったよ。
そして、今までの彼の奇行については内緒にしておいた。
だって、そんなことをいっても、津田君は信じてくれないと思ったからさ。

多分、津田君はあの狐に憑かれていたんだと思う。
もちろん、そんなこともいわなかったよ。
まあ、津田君が普通に戻ったんだからね。
一件落着ってわけだ。

今でも、津田君は普通に学校に通っているよ。
元気にね。
ねえ、坂上君。
そのトイレの文字盤を見てみたいなんて、いわないよね?
1.見てみたい
2.見たくない